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自閉症を旅する

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[Part1]新緑に踊る心

高橋紗都(中央)と両親=2008年8月撮影

人による支援が、自閉症の人を成長させる。私が暮らす大阪に、その実例がある。大阪府大東市の音大生、高橋紗都(さと、20)に初めて会ったのは08年。冒頭で触れた新聞連載の取材で、彼女は小学6年生だった。ちょっと不安そうで、ほとんど話さなかった。幼い頃から聴覚が過敏で、小学校入学直後から登校を嫌がった。自傷行為も始まり、父・純と母・尚美は自宅で勉強したいという紗都の希望を尊重し、登校しない選択をした。その後、アスペルガー症候群と診断された。


紗都は昨春、7歳から習うギターで、アマチュアのソプラノ歌手とのコンサートを開いた。久しぶりに会った彼女の成長に驚いた。9年前、観客は片手をグーにして音が出ない拍手を送ったが、この日は集まった約70人の大きな拍手をほほえんで受け止めていた。以前は予測しない変化への対応が苦手でパニックを起こしたが、歌手が歌い出しを間違えても弦の音色は乱れなかった。


高橋紗都(中央)と両親=2017年1月撮影

コンサートは中学校の時のスクールカウンセラーが中心となり企画したという。どんな見守りや支援があり、どんなふうに成長してきたのか。改めて両親と暮らす自宅を訪ねた。

3人は穏やかな笑顔で迎えてくれた。「中学校での支援が大きかった」という。放課後の静かな時間帯に登校し、数学や英語を教わった。身体検査も他の生徒の前に受けさせてもらえた。小学校ではつらいと言っても「わがまま」と見なされたが、中学ではつらいことをつらいと受け止めてもらえ、紗都は「大人への印象がガラリと変わった」という。学校まで徒歩5分。初めは母親と一緒に、次第に1人で通えるようになった。


中学を卒業後、通信制高校に進学。2年前からは私立大学の音楽学部に週2回、電車を3回乗り継いで通う。


昔は拍手が苦手だったが、「演奏が終わると観客は拍手するもの」だと理解し、受け入れる努力をした。昨春のコンサートでは、事前に歌手のミスを想定して練習を重ねた。


とはいえ、いまも過敏な感覚で苦労はする。新しいショッピングセンターは苦手だ。光を反射する新しい床や交錯するBGM、人の足音など、耳や目に飛び込んでくる情報がつらい。「多くの人が無意識に捨てている情報を拾っているから」と尚美は言う。


一方で、だからこそ受け止める豊かな世界がある。自然が大好きで、春には新緑が芽生え、葉が大きくなるに従って風になびく音が日々変わるのを感じ、心が躍る。水滴が放つ光や、映し出す周りの風景を眺めて楽しんでいる。


紗都は今後、「しんどくならない今の生活を維持しつつ、演奏活動を続けていきたい」という。「ギターは言葉。ギターのほうが思いを伝えられる」。心を込めて演奏し、客席からふわりと心地よい空気を感じ取ったとき、充実感に満たされるという。


(太田康夫)

(文中敬称略)

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