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自閉症を旅する

[Part2]障害は才能に変わる




米西海岸では、その後もITと自閉症の人たちの自立支援とが結びつく現場を訪ねた。サンフランシスコの南部にソフトウェア大手SAP(本社・ドイツ)のオフィスがある。全世界で8万人以上の社員を有する世界的企業では、13年から自閉症の人の積極採用を進めている。世界9カ国で116人の自閉症の人を雇用し、米国は最多の38人を占め、グラフィックデザイナーやデータ分析など21種の仕事についている。将来、社員の1%を自閉症の人にする計画だ。


彼らの多くは大学や大学院卒だが、面接などで不採用となり、SAPに来る前は無職やパートだった。50社の面接に落ちた人、ホームレスだった人もいる。SAPでは優れた記憶力や並外れた集中力を発揮し、データや情報のわずかなミスを発見するなど活躍しているという。


2年前から働いているアスペルガー症候群の男性社員(31)は、カリフォルニア大バークリー校で物理工学を学んだが就職できなかった。採用面接で「あなたのことを教えて」と言われて戸惑ったのだ。「あいまいな質問は苦手でした」。ようやく得た仕事は郵便物を管理するパート業務。その後、大学のカウンセラーの紹介でSAPに就職し、今は製品の品質テストなどを担当する。直属の上司は「細部への注意力や集中力が素晴らしい」と言う。


採用プログラムの責任者、ホセ・ベラスコ(53)によると、就労前に6週間の訓練を行い、適性や能力を見極める。採用後は数人のチームを組み、健常者と一緒に働く。特性を理解するマネジャーや教育役、ランチを一緒に食べたり、社外で一緒に遊んだりする友人役、私生活の調整役ら、複数の人が就労を支える。採用者の定着率は9割超だ。


ベラスコの2人の子どももアスペルガー症候群だという。長年、製品管理部門で働いてきたが、現在の部署への異動を希望した。「子どもの将来への不安で夜中に跳び起きたこともある。今後はより生きやすくなるよう、世の中は変わっていくだろう」


自閉症の特性をビジネスの「戦力」とみるSAPの取り組みは、私には画期的に思えた。過去の国内取材で、その特性がマイナスに評価され、就労が阻まれたり、退職を余儀なくされたりする事例を見てきたからだ。


難関大学院を出たある青年は、会社の新人研修で「あなたができることは」と聞かれ、「ビデオのタイマー予約と宅配ピザの注文」と答えた。「会社の仕事としてできることは」という言外の意味を読み取れなかったのだ。医師の診断はなかったが、前出のSAPの社員と同じく、あいまいな表現の理解が苦手だった。その後、雇用継続が困難と判断され3カ月で会社をやめた。


SAPでは、同僚らの支援によって、自閉症の特性が「才能」として開花している。この取り組みに他社も注目し、60社以上から問い合わせがあったという。


ただ、SAPで活躍するような知的能力が高い人は全体の中の一部だ。社会参加がより困難な人たちにもITの訓練をし、雇用するNPOがあると聞き、テキサス州ダラス郊外のプレイノに飛んだ。


団体の名は「ノンパレイル」。「比類のない」といった意味だ。CEOのダン・セレック(54)は三男のケイレブ(19)が幼少時に自閉症と診断された。息子が経済的に自立できる道を探り、彼がゲームに関心を持っていたことから、IT分野で長年働いた経験を生かし、同じく自閉症の息子を持つ現社長のゲーリー・ムーア(61)と08年に団体を設立。自閉症の人たちにソフトやゲーム開発を教え、仕事を提供している。


プレイノの事業所では6人がフルタイム、30人がパートで働き、約100人がIT技術を学習中だ。スタッフは23人。明かりが苦手な人に配慮され、昼でも薄暗い。

カイル・マックニース(28)は3歳で自閉症と診断された。高校卒業後、スーパーの袋詰めやレストランの片付け係をしていたが、ストレスが多い一方で時給は低く、「先が見えない毎日だった」。講演会でセレックと出会い、ITを学ぶ。5歳の頃から熱烈なゲーマーの彼はめきめきと力をつけ、今では同僚たちの指導役だ。「夢だった自立ができた」と喜ぶ。


だが売れる商品の開発は難しい。八つのアプリを作ったが売り上げは年間1000ドル(約11万円)で、主な収入はITを学ぶ生徒が支払う月額850ドルの学費と寄付金だ。今後は自動車整備や調理に仕事の幅を広げ、居住と働く場を隣接させた「コミュニティー」を目指すという。


(太田康夫)

(文中敬称略)

本編2へ続く

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