RSS

国境を越える電力

[Part1] 「脱ロ入欧」の攻防/ロシア海軍が威嚇

photo:Murayama Yusuke

エネルギーは国家の安全保障に直結する。電力網は、ときにその攻防の舞台にもなる。


「圧力や脅迫もあった」。リトアニア外相リナス・リンケビチュス(56)は首都ビリニュスの執務室で、厳しい表情でロシアとの「攻防」を振り返った。


リトアニアは1990年に旧ソ連から独立を宣言した後、ロシアの影響力排除と欧州への統合に突き進んできた。2004年に悲願だった北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)への加盟を実現。だがその条件として、旧ソ連の遺産だった古いチェルノブイリ型原発2基の閉鎖を余儀なくされた。


09年末に最後の原発が閉鎖すると、輸出するほどだった発電量は一気に6割も減り、ロシアからの電力や天然ガスなどの輸入で穴埋めせざるを得なくなった。ロシアは、欧州で最も高い「懲罰的な天然ガス価格」(リトアニアのエネルギー省幹部)を突きつけた。「脱ロ入欧」したはずだったのに、逆にエネルギーのロシア依存度が8割に達する苦境に陥った。14年のロシアによるクリミア半島併合で、「次は我々が狙われるのでは」という警戒感も高まった。


反転攻勢ののろしは、バルト海に面した港町クライペダに14年末に完工した、液化天然ガス(LNG)の輸入施設だった。ロシアに頼らず、世界中から調達できるようになった。


電力網も、バルト海を渡って西のスウェーデンと結ぶ海底送電線(約450キロ)と、南のポーランドとの陸上送電線(約160キロ)の敷設工事を進めた。完成すれば、電力も欧州から自由に調達できるようになる。



エネルギー独立戦争


ロシアは黙ってはいなかった。


リトアニアと接する飛び地カリーニングラードに基地を構えるロシア海軍が、リトアニアの排他的経済水域で実弾を使った軍事演習を頻繁に始めた。海底に送電線を敷く工事をしていた船団に4回にわたって退去を要求。これに対して、リトアニア、スウェーデン両政府が外交ルートで何回も抗議し、リトアニア軍がヘリや艦艇を周辺海域に出動させる事態になった。「考えられるか?1カ月に26日間も演習するんだぞ。こんな軍によるフーリガン行為をするなんて、よっぽど我々が気に入らなかったんだろう」(リンケビチュス)


それでも15年末、念願の2本の送電線が完成。16年の電気料金は2年前と比べ約25%も下がり、電力のロシア依存は一気に2割ほどに下がった。いま、リンケビチュスは言う。「ロシアを切りはしない。一番安ければ買えばよいのだから」



エネルギーの自立に突き進むリトアニアが次に目指すのは、ロシアと同じ電力網からの脱出だ。現在は、ロシアと同じ電力系統に属しているため、ロシアがリトアニアの電力の周波数を制御できてしまう。バルト3国は25年をめどに欧州の電力網への編入を目指す。エネルギー相のジケマンタス・バイチュナス(35)は「脱ロシアの最終段階だ。これで我々のエネルギー独立戦争は完結する」と話す。


(村山祐介)

(文中敬称略)

次ページへ続く

…続きを読む

この記事の続きをお読みいただくためには、購読手続きが必要です。
GLOBE総合ガイド
  • ログインする
  • ご購読申し込み

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

「朝日新聞デジタル(フルプラン)」を購読済みの方は、ご利用のログインID・パスワードでGLOBEデジタル版の全てのコンテンツをお楽しみいただけます。「ログイン」へお進みください。
朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示