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国境を越える電力

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[Part1]海を越える風、水、光



国境を越える電力

(撮影:村山祐介、機材提供:BS朝日「いま世界は」)

夜明けとともに漁船で沖に出た。かすみがかった水平線上に、巨大な風車群がうっすらと浮かび上がってきた。海原に点々と、視界のはるか先まで連なる。デンマーク北部グレノ港から約1時間。船は同国最大のアンホルト洋上風力発電所の海域に入った。


ここは、国境を越えて送電網を張り巡らせ、再生可能エネルギーを域内でやりとりする欧州の、いわば最前線だ。


高さ82メートルの塔の先端で、長さ60メートルの3枚の羽根がゆっくりと回っている。2013年に稼働した計111基の総出力は40万キロワット(kW)。40万世帯分以上を賄える。


遠浅で強風の吹く北海では、沿岸国が規模を競い合うように大型洋上風力発電の開発に乗り出している。デンマークは15年、風力が電力需要の42%をカバーし、世界で最も高い比率を更新、発電量に占める割合も5割に達した。


だが、強風の日があれば、なぎの日もある。そんな気まぐれな「風任せ」で本当にやっていけるのだろうか。



「ベースロード電源」なんてものはない


私がこれまで取材してきた日本の政府や大手電力は、原発と石炭火力、水力などを「ベースロード電源」、いわば大黒柱と位置づけてきた。出力が変動する風力や太陽光は「半人前」扱いで、電力会社が新たな受け入れを停止したことすらあった。


国営送電会社エナジーネットDKの副社長ピーター・ヤーカンソン(62)にそんな疑問をぶつけると、苦笑いしながら言った。「答えはとても簡単だ。『ベースロード電源』なんてものはないんだよ」


示されたグラフには、15年8月末からの電力需要と供給の推移が描かれていた。


なぎだった月曜午前10時、需要の半分以上をノルウェーなどからの輸入電力が支えていた。強風だった水曜午前2時には一転、風力などの国内発電だけでまかない、スウェーデンに輸出までしていた。


風が弱く発電量が少ないときは国内市場で電力価格が上がるので、周辺国から安い電力を買う。強風なら発電量が増えて価格が下がるため、周辺国に輸出して稼ぐ。「ダイナミックな発電と輸出入が、風力を抑制しないで運用できる秘訣(ひけつ)だ。強い電力網が極めて重要になる」とヤーカンソンは言った。


ベースロードに再生エネを上乗せするのではなく、まず再生エネを最大限入れて、足りない分を火力や輸入で補う。いわば逆転の発想だ。「多くの国は無理だと言うが、可能だったことを証明できたよ」




フィヨルドを目指す電力


でも電力の輸出入と言われても、なかなか想像ができない。貿易で言えば「国際港」にあたる施設、デンマークのユトランド半島北部のチーレ変換所に向かった。


鉄塔と電線が張り巡らされた構内に人気はなく、時折、「ジジジ」という火花が散るような音が聞こえた。


技術者ジェスパー・バク(44)は「今はノルウェーの方が安いから60万kWを輸入しているところだ」とモニターを指さした。


国内の電力網は、電圧が一定周期で変わる「交流」の電気が流れている。だが長距離を送るには、電圧が一定の「直流」で、しかも圧力が高いほどロスが少ない。だから、ノルウェーとはその「高圧直流」の海底送電線で結ばれている。送電線を船とすると、長旅で傷つかないように貨物を荷造りするイメージに近い。アンホルトなど国内でつくった交流の電気は、変換所で直流に変えて輸出する。


海底送電線が向かうノルウェー南部は、複雑な地形のフィヨルドに湖や氷河が点在する地域だ。地図をみると、北海沿岸の各地と送電線で結ばれている。なぜ電力はフィヨルドを目指すのだろう。


ノルウェー南部の港町から船や車で3時間。フィヨルドの奥地に同国最大のキビルダル水力発電所はあった。といっても地上にあるのは小さな変電所くらい。96%を水力で発電するノルウェーでは、景観への配慮でほとんどの設備は地下に収めているのだという。

チーレ変換所
photo:Muayama Yusuke



欧州の「仮想バッテリー」


車に乗り込み、山裾の小さな門を入った。シャッターが上がると、地下に続くトンネルになっていた。大きな空洞にテント大のタービンの上部が四つ並び、ゴーという回転音が響く。原発1基分に相当する124万kWの出力を持つ。


鉄格子の床の下に見えた水は、山を越えた先にある同国最大の貯水池から流れ込んでいる。14のダムで流量を調整しているという。


外の野球場ほどの敷地では、英東部まで海底約720キロメートルを結ぶ「北海リンク」の変換所の建設が進む。案内してくれたノルウェーの国営送電会社スタットネットの副社長クリステル・ギリエ(44)は言った。「ここがノルウェーの水力システムの心臓部だ」


風と光は無尽蔵だが、変動が大きい。水は有限で、雨期と乾期で変動するが、ためておける。ノルウェーは、強風や快晴で周辺国の電力が安ければ、輸入して水は使わないでおく。余った風と光の電力が、送電線を通じてノルウェーの貯水池に水として蓄えられるような仕組みになっていた。だから、送電線はフィヨルドに集まっていたのだ。


ギリエは言う。「あらゆる再生エネが欧州を行き交い、余ったらノルウェーが引き受ける。ノルウェーは欧州の『仮想バッテリー』になるんだ」


(村山祐介)

(文中敬称略)

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