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Olá! みんなの経済

[Part1]しぶといグローバリズム


「トランプの米国」が象徴するように、世界では国家が市場から主役の座を取り戻そうとしているかにみえる。しかし、社会主義も福祉国家も壁にぶち当たり、国家だってさんざん失敗してきたはずだ。では、連帯経済はグローバル資本主義の「オルタナティブ」(対案)になり得るのか。


かなり厳しい評価もある。マルクス主義の立場から疑問を投げかけるのはリオ・グランデ・ド・ノルテ大学教授のエンヒッケ・ウェーレン(38)だ。連帯経済の働き手の多くは低賃金で、労働時間や安全衛生などの法的な保護に欠けており、「労働者がせっかく確立してきた権利を後退させ、むしろ資本家の利益につながっている」とみる。綿農家とVejaの例もあるから全部がダメというわけでもないだろう。ただ、資本主義を乗り越える試みのはずが、その強化につながっているとすれば皮肉な話だ。


連帯経済に詳しい社会哲学の専門家である中野佳裕(39)は、連帯経済が弱者救済を目的としたNPOと違うのは、「経済の仕組み自体をより民主的で持続可能なものにつくり変えようとしている点だ」と指摘する。


しかし、実際にブラジルを旅して感じたのは、「みんなの経済」が持つ可能性よりむしろ、その前に立ちふさがるグローバル資本主義の強大さ、しぶとさの方だった。


連帯経済は、そこからはじかれた人の「安全網」としては、確かに機能していた。だが、実際にその仕組みの中で働く人たちから、同じような言葉を聞いた。「もっといい給料をくれるなら、組合でも会社でもなんでもいい」。リーダーたちの理想は高いものの、現場の働き手たちにとって切実なのは、今日明日を食っていけるかどうかなのだ。そこから、社会全体を巻き込んで経済のありようを変えていくまでの道筋は、まだ見通せない気がした。



ブエン・ビビール

そんな疑問を、ブラジルに来ていたフランスの社会経済学者、ジャン=ルイ・ラヴィル(62)にぶつけた。彼は90年代、世界に先駆けて連帯経済の概念を提唱したこの分野の第一人者だ。


多くの人々の「ブエン・ビビール」(良き暮らし、という意味のスペイン語)を実現するためには、市場とも国家とも異なる原理を、経済に埋め込んでいくことが欠かせない、と彼は言った。存在は小さくとも、それを具体化したのが連帯経済なのだと。


「ブエン・ビビール」は南米先住民の言葉に由来する考え方で、環境と調和して精神的に豊かに暮らすことを指す。08年に南米エクアドルの憲法に記され、資本主義的な「豊かさ」を相対化する理念として、南米・南欧問わずよく使われるようになった。


ラヴィルは静かに言葉を継いだ。「ブラジルでの数々の試みが示しているのは、コミュニティーによる連帯が、単なる理論やユートピアではなくて、風景のなかに実在しているということです。国家や市場だけではない、多元的な経済が姿を見せ始めたことに、もっと私たちは注意を向けるべきなのです」


たしかに、いまの資本主義だって確立までに200年以上を要した。人類が「次」の経済の姿を見いだすまで、あと何世代かかるかわからない。そこにブエン・ビビールや連帯の精神がどれほど息づくのか。よほど長生きしないと見届けられそうにないのが、残念ではある。


(江渕崇)

(文中敬称略)

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