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Olá! みんなの経済

[Part2]高級スニーカーに




原料をつくる綿農家に会いに、ブラジル北東部セアラ州にあるタウア村に向かった。州都フォルタレザから高速道路を約350キロ。サボテンが自生する荒野を車窓から眺めていて、妙なことに気づいた。時速約100キロで走る車のすぐそばで手を振る人が、数百メートルごとにいるのだ。「農家の物乞いですよ」とドライバー。干ばつがひどく、農業収入が足りないのだという。途中、この地で半年ぶりの雨が降った。


タウア村一帯の約70軒の綿農家でつくる生産者協会「ADEC」を訪ねた。リーダーのフランシスコ・シルバ(84)は自分の子供11人を農業の収入で育て上げた。「この辺はみんな綿を植えてきたが、虫にやられたり、雨が降らなかったりで、助け合わないとやっていけない」。せっかく野菜や綿ができても、地主や仲買人に安く買いたたかれてしまいがちだ。協会は農薬を使わない有機綿の栽培法を農家にアドバイスし、綿を買い取り、それをまとめて売っている。


有機栽培を徹底させることで、ジュスタ・トラマと、フランスの高級スニーカーメーカー「Veja(ヴェジャ)」の二つが綿を高く買ってくれている。おかげで、以前の倍の代金を農家に払うことができるようになったという。


10年前から協会に加わる綿農家のジョゼ・リノ・デ・ソウザ(59)は、「先祖からの土地を汚さないよう、土作りにはこだわっている」と言う。自分の綿が、品質検査で一度もはじかれたことがないのが自慢らしい。協会に入る前は地元の会社に綿を売っていたが、値段はおろか、買ってくれるかどうかすら収穫後にしか分からず、作った分が丸損になったこともあった。協会はジュスタ・トラマやVejaと毎年、栽培を始める前に買い取り価格を決めている。「安心して綿の栽培に専念できる」とソウザ。記念にもらったというVejaのスニーカーは、戸棚に大事にしまってあった。



資本主義と連帯経済をつなぐ


ちょうどVejaの創業者、フランソワ・モリヨン(38)がパリから年1度の価格交渉にやってきていた。彼が履く真っ白い革のスニーカー、どうにもオシャレだ。1足買いたいと頼んだのだが、残念ながら未発売のモデルだという。


このブランド、「V」のマークでファッション愛好家に知られ、日本でも一部セレクトショップが扱っている。綿、ゴム、革とどれもブラジルの自然素材を使い、工場もブラジルにある。


綿農家とのミーティングで、モリヨンが説明に立ち上がった。「Vejaは去年より7割も売り上げが伸びました。次はもっと高い値段で綿を買うので、ぜひ生産量を増やしてほしい。皆さんの仕事の成果を、パリ、ニューヨーク、東京と世界に広げていきます」。新しく売り出すモデルの名前は、日本語の綿にちなんで「WATA」だと明かした。


モリヨンはビジネススクールを出て、ニューヨークの投資銀行で働いたこともあった。だが、「同僚の会話といえば、最高のワインが手に入ったとか。退屈な人生に見えた」。幼なじみの同級生とともにVejaを始めた。目指したのは「ナイキとは別のスニーカー」。既存のスニーカーはグローバル資本主義のシンボルに思えた。素材をできるだけ安く買い、人件費が安く環境規制も緩い国で生産する。その一方で、有名アスリートを使った宣伝でイメージを高め、売価を上げる。スニーカーの値段の7割はマーケティング費なんだよ、とモリヨンは言う。


Veja自体は株式会社だが、連帯経済とのつながりでブランドイメージを良くし、生産コストはかかるが既存メーカーよりも1割ほど高い値段で靴を売ってもうけを確保する。なかなかしたたかな戦略だ。モリヨンは「資本主義と連帯経済とをつなぐ懸け橋になることで、かかわる人がみな適正な対価を手にできる、いまよりマシでクリーンな経済を実現したいのです」と話した。


驚いたのは、一人の農家がモリヨンに「綿だけでなく、豆なども固定価格で買ってくれないか」と尋ねたことだ。さすがに彼は断っていたが、農家に依存心が芽生えていないか、少し気になった。



(江渕崇)

(文中敬称略)

本編2へ続く





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