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デザイン思考が変える

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[Part1]科学技術+芸術=未来



王立芸術大学院IDE学科

撮影:中村裕、機材提供:BS朝日「いま世界は」

車いすで実用化された折りたためる車輪。段ボールを使いながら既製の素材より衝撃に強い自転車用ヘルメット。はだし感覚で走れる極薄ソールのジョギングシューズ。堤防の補強材などに実用化された、濡らすとカチコチに固まってコンクリート代わりになる布地──。


これらは、英ロンドンにある王立芸術大学院の学科長室の棚に並ぶ、卒業生たちの作品だ。


1837年に創立され、現存する中では世界最古とされる美術学校が、隣接する理系大学のインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の協力でインダストリアル・デザイン・エンジニアリング学科(IDE)を誕生させたのは1980年。最初に入学したのは、ICLの卒業生3人だった。それが、いまでは世界約30カ国から学生が集まり、毎年50人弱が巣立つ。


学科長のマイルズ・ペニントンは、「人間の感情に訴えるのは技術ではなくデザインです。仕掛けを動かすのは技術ですが、技術に最適なかたちを与えるデザインの要素が加わらないと完成品にはならないのです」と語る。



存在しないビジネスをつくる人材


現在、IDEは「I」をインダストリアルからイノベーションに変え、文系、理系を問わず入学者を募る。「私たちの使命が、優秀な工業デザイナーを既存の産業界へ送り出すことから、まだ世の中に存在しないビジネスをゼロからつくる人材を育てることに移ったからです」


指導方針はユニークだ。講義はせず、モノやサービスの試作を繰り返す。「たくさん失敗すること」「失敗をおそれなくなること」が狙いだ。もうひとつはデザインを現実の世界に応用するための短期の海外研修。2016年は2年生が南アフリカのケープタウンで家具工房やワイナリーといった地元産業と協働した。


卒業生は世界中の大手企業から引っ張りだこだ。しかし、半数近くは在学中に考え出した作品を世に出すため起業を目指す。


そんな一人が、イーストロンドンに事務所を構えるベアコンダクティブ社の共同創業者マット・ジョンソン(34)だ。売り物は電気を通すインク。触れても安全で、Tシャツや紙にも電子回路を描け、印刷もできる。米コロラド州デンバーの出身で、大学は経済学部で大手建設会社に入社した。だが、自分のアイデアでものづくりがしたくて2007年にIDEに入学したという。

photo:Kodera Hiroyuki

エレクトリックペン

IDE在学中に「エレクトロニクスと人間に肉体の融合をデザインする」という課題に取り組んだことで生まれた(撮影:中村裕、機材提供:BS朝日「いま世界は」)


デザイン力で産業振興


「クラスの半数が英国以外の出身で専門分野も様々。航空工学や医学を学んだ人、芸術家もジャーナリストもいた。多様な背景を持つ学生が同じ課題をどのようにとらえるのか、刺激的だった」と振り返る。


英国が「世界の工場」と呼ばれていたのは1世紀以上も前のことだ。新興国の台頭でものづくりの競争力は衰えたが、多国籍企業がロンドンにデザインセンターを置いたり、英国のデザイン産業が世界中にクライアントを広げたり、デザイン先進国の地位を保つ。


英国の公共機関「イノベートUK」は15年から「イノベーションのためのデザイン戦略」という5カ年計画を始めた。企業がデザインの力を生かす試みを資金面で支援する。17年の予算は300万ポンド(約4億2500万円)。デザイン分野に1ポンド投資すれば売り上げが最大で20ポンド伸びるとの試算があるという。専門官のベン・グリフィンは「官民一体となって、英国のデザイン力を産業振興に生かす」と言う。


IDEのペニントンは、こう語った。「未来をつくるのはデザイナーの専売特許ではない。しかし、未来を変えうるアイデアを抱いたときに、デザイナーは産業と手を結んで実際に世の中に影響を与えることができるのです」


(中村裕)

(文中敬称略)

次ページへ続く


gravity sketch

手に持った端末で空中に描いたものがヘッドセットの中で立体として空中に浮かぶ。誰にでも簡単に3Dデータをつくれるように王立芸術大学院の4人が発明、デザインした。実演しているのは共同創業者のオルワセイ・ソサンヤ
photo:Nakamura Yutaka


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