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デザイン思考が変える

[Part2]布製のクルマが公道を走る日



rimOnOと根津孝太
photo:Nakamura Yutaka


「豊かな日本で〝難民〟が生まれているなんておかしな話ですよね?」


電動自動車「rimOnO」(リモノ)の開発を始めた動機を尋ねると、デザイナーの根津孝太(47)はそう切り出した。


根津のいう〝難民〟とは、鉄道や路線バスの廃止で移動手段を奪われた「交通難民」、大型ショッピングモールの進出で徒歩圏内の商店街を失った「買い物難民」など、モータリゼーションのひずみに苦しむ人々のことだ。


しかし、高齢ドライバーの誤操作による重大事故や生活道路での歩行者の死亡事故が多発するいま、クルマがあれば済む話ではない。そこで根津が提案するのが「自転車以上軽自動車未満」の乗り物でこの課題を解決することだ。


リモノは、長さ2.2メートル、幅1メートル。運転手のほか後部座席に1人乗ることができる超小型電気自動車で、最高時速は45キロ。アクセルとブレーキはスクーターのようにハンドルで操作することでペダルの踏み間違いをなくした。ボディーは金属を発泡ウレタンと防水布で包んだ。細い道ですれ違っても怖くない「布製の柔らかいクルマ」が生活道路で歩行者と共存する社会を目指す。



アホなくらいすごいもの

zecOO
2015年3月に888万円で発売された
photo:Yamada Kazunobu

誰でもひとりでどこへでも移動できる「パーソナルモビリティー」は根津のライフワークである。トヨタ自動車時代に、2005年の愛知万博で人気を博した1人乗り電気自動車「i-unit(アイユニット)」のコンセプト開発のリーダーを務めた。体に装着するような斬新なスタイリングの近未来車は、ひじ掛けに設けた手のひらサイズの半球のコントーラー一つで動く優れた操作性が筋ジストロフィーの患者にも希望を与えた。


アイユニットからリモノに至る10年の歩みの中で根津は転機を二つ経験している。フリーへの転身と東日本大震災だ。トヨタを辞める決断は、「一人になる自由」が結果的にデザイナーとしての仕事を豊かなものにするだろうという直感が後押しした。しかし、東日本大震災ではその「一人のデザイナー」であることの無力さを思い知らされたという。


相反する経験が生んだのが電動バイク「zecOO(ゼクウ)」だ。震災後にプロジェクトを始め、15年に商品化した。レース車並みの高性能と大友克洋の漫画『AKIRA』を思わせる外観で未来を先取りした。根津の言葉を借りれば「みんなが下を向いていたからこそ作りたかったアホなくらいすごいもの」だ。震災後に活気を失ったように見えたものづくりの現場を鼓舞する思いを込めた。しかも、大企業に頼らず、志を同じくする中小5社と手を組んだ。スローガンは「町工場から世界へ」。


「結局、得意なことを生かしてみんなに喜んでもらうのが、私にできる一番良い復興支援。同時に、日本のものづくりの潜在力が高いのは小さな企業が優れた技術力を持っているからだということも世界に発信したかった」と根津は言う。



クルマとヒトの関係を見直す


人と人がつながることで夢が動き出したのはリモノも同じだ。リモノ社CEOの伊藤慎介(43)は、町工場の力でゼクウができたというニュースを経済産業省時代にテレビで見て驚き、国土交通省の「超小型モビリティ導入促進事業」に加わるため根津のもとに駆けつけた。今年、原動機付き自転車として扱われる「ミニカー」として1人乗り仕様を発売し、国交省の規格が決まり次第2人乗りを世に出す。


根津は「井戸端会議という言葉が生まれた昔、道路は社交の場でもあったと思うんです。街をヒトの手に取り戻すといったら大げさですけど、国の制度も含めてクルマとヒトの関係に違う文法があってもいいのでは」と語る。


社会課題に挑みながら、「かわいがってもらえる魅力」があふれている。二つを両立させることが、根津のデザイナーとしての矜持だ。



rimOnO

曇らないガラスでワイパーは要らず、外装は着せ替えができる。photo:Furusho Hayato(撮影:中村裕、機材提供:BS朝日「いま世界は」)


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