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デザイン思考が変える

[Part3]ユーザーのまなざしを拾う/田川欣哉に聞く







デザインにはどんな力があるのでしょうか。そして、デザイナーは時代の要請にどのように応えようとしているのでしょうか。デザイン・エンジニアリングという新領域から企業のイノベーションを支えるデザイン会社Takramの共同設立者、田川欣哉さんに話を聞きました。




photo:Nakamura Yutaka


――アップルの成功に続けとばかりに、いま多くの企業がデザインの力に頼ろうとしています。なぜデザインなのですか。

企業のプロダクトやサービスの購入のあり方が変わり、人は価格や機能だけでモノを買わなくなったからです。


以前なら、モノやサービスの購入は、レジでお金を払って完成品を手に入れることで終わりました。それがIT革命後に登場したネット上で流通するサービスは、無料から始まり、その後サービスの内容に応じて逐次課金されるような世界です。お金を先に払って体験するか、体験のたびに逐次課金されるのか。この違いがプロダクトやサービスに求められる価値を変えました。


前者は購入前が勝負ですから、カタログのスペックだったり、CMで起用するタレントの人選だったり、あるいは世界最軽量だとか世界最先端といったわかりやすい価値が求められた。後者だと、お気に入りのレストランのようにまた行きたくなることが大事になる。つまり、使ってみてどうなのか、というところでお金が動くのです。

RESAS Prototype
日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS」のプロトタイプ。国家規模の経済データ活用としては世界の中でも先駆的な例とされる。政府のビッグデータ活用の推進に大きな役割を果たしているとして、2015年グッドデザイン賞金賞を受賞。
(Takram提供)


では、こうした体験価値は、どのようにすれば創造できるのでしょうか。お気に入りのレストランは、料理がおいしいことだけでなく、たとえばおもてなしが大事になります。それを誰が引き受けるのかということです。そこで求められたのがデザイナーでした。


デザイナーはそもそも、手がけたプロダクトを愛してもらいたくて、使った人がどう反応するのか突き詰めて考える人たちです。形はどうか、重さはどうか、色はどうかと。あまり類型化するのはよくありませんが、他の分野の人と比べて、製品やサービスをつくるときにユーザーの側から考える訓練がなされている。視点が人間中心なんです。


エンジニアは、たとえば1万回押しても壊れないボタンをつくるにはどうすればいいかと制約からアプローチするのですが、デザイナーはユーザーの期待に応えるためにはどうすればいいのかというところから入るんですね。ちなみに、ユーザーのまなざしを具体的にどう拾うのかというデザイナーの方法論が「デザイン思考」です。顧客との良好で継続的な関係を築くうえで、企業はデザイナーやデザイン思考といったものを無視できなくなったのです。


illustration:Tagawa Kinya

――デザインの力を経営に生かすにはどうすればいいのでしょうか。

購買決定要因を価格、機能・性能、体験価値のトライアングルに配置します。価格決定(Business)はビジネスマンが、機能・性能(Technology)の進化はエンジニアが、体験価値の創造(Creativity)はデザイナーが得意とするところです。デザインを経営に生かすとは、このトライアングル(BTCトライアングル)のバランスをうまくとることです。


ここで人材について考えてみましょう。3つの要素を優れたモノにするためには、三者の意思疎通が不可欠です。しかし日本はどうですか。高度なマネジメントと高度なテクノロジーを備えた人材が輩出することで世界と戦ってきました。工学系の大学を出て、のちに経営サイドに移るといったキャリアのBT型の人材です。その一方で、BとCをつなぐ人、TとCをつなぐ人材は手薄なままでした。その2辺を強化するうえでデザイナーの果たす役割が大きいのだと思います。デザイナーのジョナサン・アイブをナンバー2にしたアップルの成功はその象徴でした。


デザイナーならではのユニークなスキルも経営に生かせるでしょう。たとえばビジョンメイキングの領域です。ビジョンは経営者がつくるものですが、経営者の言葉の解像度が低いときには、それを明晰にすることができます。デザイナーはもともと理想主義が仕事の中にビルトインされているので、経営者のビジョンと化学反応を起こしやすく、手を組むことでほどよいビジョンにもなります。



――Takramの果たす役割はなんですか

Tagtype Garage Kit
肢体障害者用の日本語入力デバイス。五十音の行と段を交互に入力していくことができる。既存のキーボードに比べ、簡易で直観的な操作が可能だという。山中俊治氏・本間淳氏と共同でデザインと開発を行った。プロトタイプはニューヨーク近代美術館永久収蔵品に選定された。(Photo: Yukio Shimizu)

各企業でBTCのトライアングルを内在化させている人材が育ったり、あるいはその3つのファンクションを内包しているスモールチームがあったりすれば理想なのでしょう。しかし、実際には難しい。また、さきほど申し上げたとおり日本にはBT型の人材は豊富ですし、顧客目線でビジネスを成功させた、たたき上げのBC型の経営者もいます。やはり手薄なのがTとCを結ぶブリッジなんですね。そこを担うのが僕らデザインエンジニア。私が出た大学院のOBでもあるダイソン社のジェームズ・ダイソンが、その代表格ですね。


もう一つは、イノベーションを起こすお手伝いをすること。いま企業でイノベーションを起こすのはとても大変なんです。成功させた人たちに共通しているのは人柄です。すごく熱いハートを持った人望の厚い人たちです。「こいつが言うなら信じてみよう。リソースを投入してやろう」となるわけです。裏を返せば、そうした人材に恵まれないとイノベーションが芽吹く可能性やスピードが犠牲になるということです。


幸いに私たちデザイナーは、モーターショーのコンセプトカーのように未来を見える形にするビジュアライゼーションを得意としています。実際にプロトタイプをつくると社内稟議を突破する確率が高くなるんですよ。私たちのお手伝いで、新しいものが世の中に生み出されることを加速できるだろうと考えているんです。


(聞き手:中村裕)

次ページへ続く

Moon Exploration Rover
世界初のロボット月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に挑戦する日本唯一の民間月面探査チーム「HAKUTO」のサポーティングカンパニーの1社として参加し、月面を走行するローバー(フライトモデル)の意匠コンセプト立案とスタイリングを担当。
(Takram 提供)


たがわ・きんや

1976年、東京生まれ。東京大学工学部機械情報工学科卒業後、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)のイノベーション・デザイン・エンジニアリング(IDE)学科で修士課程修了。2006年、Takram design engineeringを共同設立。15年からRCAのIDE学科で客員教授を兼務。









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