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デザイン思考が変える

[Part2]人間とカタチの不思議な関係




デザインは人間の無意識に働きかけて、特定の行動を促す力を持っている。


たとえば、適度な高さで座れる形状のモノがあると、それが椅子でなくても人は座る(1)。街路の据え置き灰皿もフタが平らだと空き缶やたばこの空き箱を放置する人が絶えない(2)だろう。


早稲田大学理工学術院教授(人間生活工学)の小松原明哲によると、そうした特定の行為を誘発する力、あるいはカタチが持つ意味を「アフォーダンス」という。「ぶらぶらしているものはひっぱる。押し込めそうなら押し込む。穴があいていたらのぞく(笑)。だから空き缶を捨ててほしくなければアフォーダンスを拒否したカタチ(3)にすればいい」


こうした人間の行動特性を利用したデザインは身の回りにあふれている。自動車の速度抑制を狙った凸型の突起を思わせる路面上の塗装は、目の錯覚を利用している。工具の収納ケース(4)は、戻し忘れたら一目瞭然で気づくはずだ。


わかりにくいものはわかりやすく。間違いやすいものは間違いにくく。「『~しやすい』や『~しにくい』に注目したデザインは、ヒューマンエラーによる事故防止につながる」と小松原は語る。



不便の効用「不便益」


ただ、見方を変えると「使いにくい」デザインにもご利益はありそうだ。


それはジグソーパズルが、複雑で完成しにくいほど出来たときの喜びは大きいのに似ている。娯楽商品でなくても「不便だからこそ得られる効用(不便益)がある」と語るのは京都大学デザイン学ユニット特定教授の川上浩司だ。


たとえば介護施設は、介護する側にとっては便利だが、過保護になれば寝たきりになるなどの「便利害」が生じる。逆に2016年のグッドデザイン賞を受賞したペダル付き車いす「COGY」(5)は、動くほうの足でペダルをこぐと、反射によってまひしたほうの足が刺激され機能回復が期待できる。川上によると、「不便益」とは「手間がかかること」や「頭を使うこと」から生まれるのだ。


この発想から川上らがデザインしたのが「素数ものさし」(6)だ。刻まれた目盛りはセンチメートルもミリメートルも素数に該当する箇所だけ。目盛りにない数の長さを測定するには、足し算や引き算が必要になる。


「使った人から、手間と頭を使う分、計測ミスが減ったという評価をいただいた」と川上は話している。


(中村裕)

(文中敬称略)

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