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デザイン思考が変える

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[Part1]フェラーリみたいなトラクター



フェラーリみたいなトラクター

撮影:高橋友佳理、動画後半に使用した映像提供:ヤンマー、機材提供:BS朝日「いま世界は」



泥だらけの長靴で農業機械に乗り込み、夏は汗だく、冬は寒さに震えながら作業をする──。正直に言って、都会育ちの私は、農業に対してこんなイメージを持っていた。だから、トラクター「YT5113」を見て驚いた。


目つきの鋭いロボットのように見えるフロント部分に、私の肩近くまである巨大なタイヤ。深い紅色で全体が丸みを帯び、「未来」を感じさせる。乗せてもらうと、中はゆったりと広く、330度見渡せるガラス面から畑が目に飛び込んできた。


「見晴らしが良くて気持ちいいですよ。疲れないので一日中乗っていたい」。トラクターの持ち主、岡田吉司(46)が言う。愛知県豊田市で父(70)とともに約100ヘクタールの農地で米や麦、大豆などを栽培する。普段は父子2人の作業だから機械の力は欠かせない。トラクターやコンバインなど大型機械は12台あり、113馬力のYT5113は1年ほど前に買った。約1000万円という価格は一般モデルとほぼ変わらない。


岡田はこれらの機械の作業状況をネットで一元管理している。「農業というと『泥臭い』イメージかもしれませんが、ずっとトラクターで作業しているので、長靴なんか履きません」。もともとメカ好きだが、多額の設備投資をして最新の機械や技術を導入するのには、「そうすれば、誰かが後を継いでくれるのではないか」との思いがある。



創業100年迎えデザイン戦略室

photo:YAMMAR CO.,LTD.

農林水産省によると、日本の農業人口は1980年代に比べ6割減り、2016年には200万人を切った。65歳以上が6割を占め、岡田のような49歳以下は1割。中学3年生のめいが最近「農業高校に行きたい」と言い出したら、先生に止められたという。


斬新なトラクターを売り出したのは産業機械メーカーのヤンマーだ。2012年に創業100年を迎えたのを機に、50年以上親しまれた「ヤン坊マー坊」のイメージからの転換を図った。「デザイン戦略室」を作り、フェラーリや新幹線をデザインした世界的工業デザイナー奥山清行を社外取締役に迎え、商品を一新した。


変わったのは外観だけではない。運転席の右手にはレバー類とともに液晶タッチパネルが、左手には飲み物や携帯電話置き場があり、冷暖房やステレオも完備。体に負担がかからずに操作でき、小さなオフィスのようだ。


もちろん、トラクターひとつで流れが変わるとは思えない。ヤンマー製品を販売する男性(52)は「年配の農家からは派手な見た目に『恥ずかしくて使えない』という声もあるんです」と明かす。



海外市場に打って出る足がかりに

YAMMAR CO.,LTD.

デザイン戦略室長の土屋陽太郎(42)も「突然売り上げが伸びたり、農業をやりたい人が増えたりするわけではない」と話す。ただ、国内市場が縮小するなかで、海外市場に打って出る足がかりにはなる、と見ている。スポーツカーのランボルギーニは元々トラクターの会社で、米国のジョンディア、ドイツのフェントなどの農業機械はデザイン性に優れ、子どもたちの憧れだ。これまで日本製の存在感は薄かった。


デザイン戦略の総合プロデューサーに起用され、新しいロゴも手がけた佐藤可士和(51)は「農業の課題に一石を投じるというのは非常にやりがいがある。言葉では伝わりにくい新しい理念も、デザインの力で素早く立体的に届けられる」と言う。


実際、農業でのデザイン改革は広がりを見せる。井関農機は15年、新型トラクター「しろプチ」を発売。白い車体にピンクの花束をあしらったデザインで女性の農業参入を促す。クボタもアウトドア用品大手の「モンベル」とともに14年からおしゃれでカラフルな作業着を売り出した。


(高橋友佳理)

(文中敬称略)

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