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被災地と復興庁

[Part3]象徴としての地方負担








2014年秋の朝。東京・紀尾井町のホテルニューオータニにある日本料理屋「なだ万」に、復興相に就いた竹下亘、副大臣の長島忠美、副大臣から大臣補佐官に転じた谷公一ら与党議員たちの姿があった。政治家だけで早めに話をしておきたいと、竹下が開いた朝食会だった。


「すまんが、君らは悪役になってもらう」と竹下が切り出した。「私の在任中に地方負担を入れる。恨まれるかもしれないが、協力してほしい」


長島はかつて、新潟県の旧山古志村長として新潟県中越地震からの復興を指揮した。谷も阪神大震災の復興にたずさわった。2人とも、自治体も負担しながら復興したという自負がある。異論は出なかった。


竹下は建設会社幹部からこんな話を聞いていたと語る。「国のお金で道路も橋も公民館もつくれますよ」と被災地を営業して回ると、「タダなら全部やって下さい」という自治体もあった──。


一方、復興庁の官僚たちも水面下で準備を進めていた。「自己負担があれば、必要な事業を真剣に選んでもらえると考えた」と当時の幹部はいう。地方の負担額を「スズメの涙ほどでも」と表現した。




受け入れやむなしという本音


「集中復興期間」の5年を総括し、その後の5年間の枠組みを固める時期が近づいた15年の春先、復興庁は動き出す。まず竹下が国会や記者会見、テレビ番組で「地方負担」を小出しにしていった。非難が相次ぐ。「被災地を切り捨てるのか」「傷口に塩を塗るつもりか」


長島や谷らが、「説得役」として被災地を回った。首長や議長も、一対一で会えば「いつまでも全部国費が難しいのは分かっています」という反応だったという。谷は3月末、A4で4枚の独自の調査結果を竹下に伝えた。被災3県の財政が震災後もさほど悪化していないと、阪神大震災時の兵庫県と比べて市町村別に示した。


地方負担を求める方針は5月に正式に発表された。河北新報(本社・仙台市)は社説で「被災地には失望と困惑が広がっている」と批判。岩手日報も「復興のブレーキになる」と論陣を張った。


受け入れやむなしという本音と、被災地世論の間で揺れる自治体。流れを決めたのは、宮城県知事の村井嘉浩だった。


5月26日、被災3県の知事と復興庁幹部らが勢ぞろいした復興推進委員会。議事録によると、地方負担について「遺憾」と述べていた村井は、会議の最後に突然こう呼びかけた。「十分納得していないけれども、その方針で合意したと記者発表できないか」。岩手県知事の達増拓也、福島県知事の内堀雅雄からは、その場で「違和感がある」など異論が出たが、1カ月後、3県知事は地方負担の受け入れを決めた。


その理由の一つは、「実際の負担額がそれほど大きくないと分かった」(宮城県沿岸部の首長)ことだ。宅地や市街地の造成、公的施設の再建など中心的な事業は、引き続き全額国費でみる。青森と宮城を結ぶ三陸沿岸道路など巨大道路の建設まで、地元の負担なしで決着した。対象となる地域振興などの事業も負担率は1~3%ほど。新年度から5年間の復興予算6.5兆円のうち、地方負担は計220億円程度にとどまる見込みだ。





しわよせは被災地の若い住民に


それでも、「震災5年」を総括した結果の地方負担導入に、自治体には不満がくすぶる。


自治体職員は、土地区画整理などを進めるのに必要な地権者全員のハンコを得るため、いまも全国を飛び回る。「国が法律を改正してくれれば」(岩手県宮古市長の山本正徳)と首長たちは口をそろえる。「5年たってここまでしか復興できていないことも総括してもらわないと、気が収まらない」。陸前高田市長の戸羽はまだ納得しきれない様子だった。


自治体との約100日の攻防の間、復興庁は「復興には支障を来さない」(前復興相の竹下)と言い続けた。地方負担は「被災地も身銭を切った」ことを示す象徴的な意味が大きいと、多くの関係者が認める。大がかりな土木工事で安全性を高め、被災者がふるさとに再び住めるようにする、という大枠自体は変わっていない。


エコノミストの原田泰(現・日本銀行審議委員)や、一橋大学のマクロ経済学者、齊藤誠らは、政府が震災直後に出した被害推計(16兆?25兆円)が実態に比べて過大だと指摘してきた。この推計も根拠にはじき出された復興予算は、当初の5年間19兆円から、自民党の政権復帰を経て25兆円、そして10年間32兆円へと膨らんでいった。


齊藤はこう警告する。「費用対効果を考えない事業に、社会の資源を浪費した。一番の被害者は、過大な施設の維持管理コストを将来負担させられる被災地の若い住民だ」




(江渕崇)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)





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