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空室あります

[Part1]補助金途切れ、岐路に立つ公的住宅/欧州





パリ郊外クリシースボワ市の団地
photo:Sophie Dupuy

アパルトヘイト(人種隔離)。今年1月に起きたフランスの週刊紙「シャルリー・エブド」などに対する連続テロ事件を受け、仏首相のマヌエル・バルスは大都市郊外の現状をこう表現した。


貧困、高い失業率、移民の集中。「問題地区」と呼ばれる街には、公的資金を投じて建設され、家賃が低く抑えられた「社会住宅」が多い。1950年代から70年代の高度成長期にかけて大量に建てられ、その後アルジェリアなど旧植民地からの移民の受け皿となった。


その一つ、パリ郊外のクリシースボワ市を訪ねた。


パリ中心部から東へ15キロほどだが、本数が少ない電車とバスを乗り継いで1時間20分。無機質なデザインの十数階建てのアパートが並ぶ団地に着いた。立ち木の枝々には、ゴミがぶら下がる。「2年前に結核が集団発生しました。信じられますか」。副市長のメフディ・ビガデルヌは嘆いた。


市の人口は約3万で7割が集合住宅に住む。住戸の35%は社会住宅で、国全体の平均の倍近い割合だ。


ここは、2005年秋にフランス全土に飛び火した暴動の震源地だった。アフリカ系の少年2人の死亡事故に端を発し、1万台以上の車が燃やされ、約6000人が逮捕された。


商店街で話を聞いたカイス・マンソーニ(25)はアルジェリア系移民の2世で失業中。自身と妻、子ども2人、両親とおいの計7人で社会住宅に住んでいる。「エレベーターも暖房もまともに動かない。壁に落書きされたラップソングの歌詞も気に食わない」と不満をもらした。






「未来都市」目指して

再生事業前の1990年のベルマミーア団地
photo:Aflo

もっとも、仏政府が何もしなかったわけではない。70年代から、建物の修繕やインフラ整備だけでなく、雇用や福祉、教育の改善に取り組んできた。また2000年に成立した「都市の連帯と再生に関する法」などに基づき、都市部の自治体を中心に全住宅の2割以上を社会住宅として供給することを義務づけている。特定の地区に低所得者を集中させないための工夫だ。


だが、仏紙ルモンドによると、対象の1021自治体のうち、3分の1以上の369が目標を達成していない。問題地区の改善事業を進める都市リノベーション機構のトップ、フランソワ・プュポニ(52)は「白人中間層が有色人種の貧困層と同じ地区に住みたがらない。首相の『アパルトヘイト』という表現は的を射ている」と説明した。


欧州では、政府が補助金を投じ、住宅を大量につくった国がいくつもある。なかでもオランダは、全住宅に占める社会住宅の割合が約3割にのぼり、欧州連合(EU)加盟国で最も多い。


オランダ最大の都市、アムステルダム中心部から地下鉄で15分ほど。「未来都市」を目指したベルマミーア団地には集合住宅の実験と失敗、そして再生の物語がつまっている。


「ドラッグや売春、犯罪が横行し、本当に危険なところだったのよ」。団地に暮らして30年になるイェニー・ファン・ダーレン(64)は引っ越してきた当時を振り返った。


総戸数1万4000戸、人口6万の計画で団地の入居が本格化したのが1970年代。だが、一辺100メートル、11階建ての画一的な高層住宅群がオランダ人の好みにあわず、中間層の住民が流出する一方、南米など旧植民地からの移民が増えた。






「オランダ・モデル」


80年代には4戸に1戸が空室に。荒廃に歯止めをかけようと、90年代初めに大がかりな再生事業が始まる。高層建築の解体と低層住宅への建て替えを進め、オフィスビルを建てて企業を誘致して雇用機会を増やし、住民の交流の場となるフェスティバルの開催を支援し、中間層にも人気の団地に生まれ変わった。


一連の再生事業を自治体と連携して担ったのが、非営利の「住宅協会」だった。20世紀初頭から、労働者向け住宅を供給するため職能団体や宗教団体が次々と生まれた。国や自治体から融資や補助金など公的支援を受け、低所得者だけでなく幅広い層のため住宅をつくった。現在、全国で約380の住宅協会が計240万戸の社会住宅を運営する。


80年代末の景気の悪化で政府は補助金をなくす代わりに、これまでの約1兆5000億円にのぼる融資の返済を求めないことを決めた。以来、民営化された協会は中間所得層向けの住宅を売って収益を稼ぎ、それを社会住宅の改修や地域開発に再投資してきた。ベルマミーア団地の再生はまさに、その事業モデルの成功例と評された。


だが、今でも政府保証で低利の融資が受けられる住宅協会が民間企業と同じ土俵で競争するのは民業圧迫になるというEUの決定により、2011年以降、社会住宅に新しく入居する人は低所得者に限定された。さらに今年3月、住宅協会による分譲住宅の建設と販売を大きく制限する法案が国会を通過した。


アムステルダム住宅協会連合会の主任政策アドバイザー、ユルン・ファンデルフィア(50)は「これだと、中高所得層と低所得層向けの住宅を同じ地域に建てるベルマミーアのような再生事業はできなくなる。『オランダ・モデル』は壊れてしまう」と訴えた。



(浜田陽太郎、取材協力・ソフィー・デュプイ)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


欧州の集合住宅

パリとアムステルダムを訪ね、欧州の集合住宅事情を探った(撮影:浜田陽太郎、機材提供:BS朝日「いま世界は」)





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