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着物に明日はあるか?

[Part6]着付けとは坂道発進である/田玉恵美







取材していて何より驚いたのは、着物姿の若い女の子から「着付けはネットで見て適当に覚えた」と聞いたときだ。もしかして私でもできるのか?


独学も不安なので、着付け講師の中村麻美さん(33)に習うことに。実家のたんすに眠る着物を引っ張り出した。襟芯だの伊達締めだの大量の小物を前に気が遠くなるが、謡うような中村さんの声に合わせて手を動かしていると……、あ、できた。「昔の人は毎日着ていたんですから、難しいわけないんですよ」


90分×3回の練習を終え、独り立ちのときが来た。自力で着て、内股でちょこまか駅へ歩く。ホームまで7分。いつもと同じだ。上司は見るなり目を丸くし「写真とっていい?」。洋服で同じことを言われたら相当気持ち悪い。足を組めないのがつらいし、洋服のほうがそりゃ楽だが、さして支障もない。


油断していると夕刻にトラブル発生。裾を床に引きずっている。会議室に立てこもって直しながら、ハタと思った。これはマニュアル車の坂道発進と同じじゃないか? 初めは何度も冷や汗をかいたが、今は余裕でできる。体で覚えたからだ。着付けも同じなのではないか。


おそろしいのは、取材中に散々うわさを聞いたが会えずじまいの「お直しオバさん」だ。着物姿の他人に街で声をかけ、「そんな着方はおかしい」と直してくれるらしい。親切心だろうが、街歩き程度で審判の対象にされると思うと、着る気が失せてしまう。初心者の坂道発進に美しいもへったくれもない。ちょっとくらいカッコ悪くても、前に進めれば、それでいいんじゃないですかね?




ただま・えみ

1977年生まれ。

今は15分で着られるようになった。


(次ページへ続く)




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