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着物に明日はあるか?

[Part5]本物は否定されていない/高橋泰三









見てください、これが手描きの京友禅です。季節や自然が優雅に表現されている。何十人もの職人による熟練の技の結晶です。えもいわれぬ気品があるでしょう? 確かに値は張ります。でも、それだけの手間と技術を込めているのです。着物を着ることで日本人である誇りを持てます。


着る人を増やすには、インクジェットで印刷した安い着物を、印刷だと明示して売るのはいいでしょう。全く否定しません。でも、それだけで文化は守れません。この国の先人が培ってきた歴史の中にある文化を世界に発信しようというときに、印刷の着物でいいとは思いません。


一流の技術は、作り続けないと継承できません。手頃な着物を入り口に、若いファンがだんだん高級品を買ってくれればと思いますが、悠長にしていられる時間はありません。うちは着物の製造卸ですが、職人は平均70歳超。業界のどこも同じです。あと5年から10年で、本物をほしい人がいても作れなくなってしまう。かなり危機的な状況です。


品質に見合わない高い値段で売るような業者が一部にいることは、大きな問題です。市場は高い着物ばかりになり、着付け教室が着物を売りつける場になっていることも多い。消費者目線を欠いた業界が伸びるはずはない。


ただ、着物そのものが否定されているわけではないとも思うのです。西洋化が進む中、着物の魅力が知られていないだけ。昔の政財官界には茶道や伝統芸能に親しむ人がたくさんいて、本物の着物を着て、生産を支えてくれました。でも今は富裕層が無芸大食になった。フェラーリは買うけれど、着物も日本文化も全く知らない。こうした人たちに本物の魅力を知ってもらうことが、業界にとっていま一番大事です。





1949年、京都市生まれ。

着物の製造卸を営む家業に入り、87年から社長。2001年、東京・銀座に直営店を出し、高級手描き友禅の魅力を発信する。各界要人の着物も手がける。



(次ページへ続く)



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