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着物に明日はあるか?

[Part1]京都・西陣から目指すは布のフェラーリ







最低気温が1度まで冷え込んだ真冬の朝、高級織物で知られる京都・西陣の工房をデンマークからトーマス・リッケとアン・マリー・ブエマンが訪ねてきた。世界中の企業でブランド戦略を担っているデザイナーだ。


1688年創業の老舗織物業「細尾」の工房は京町家のなかにある。織機がカタン、カタンと織り出す布は、極細の金銀箔がきらめき、光の当たり具合によって輝きを変えていく。これは着物用ではなく、インテリア用の生地だ。


リッケらは、細尾の海外戦略づくりに加わっている。5月に米ニューヨークの会員制クラブに招かれ、生地を紹介することになった。富裕層に、高級織物をPRするには絶好の場。どんな発表をすべきか話し合うため来日した。


社長の細尾真生(61)らとテーブルについたリッケは「歴史をもつこの技術は素晴らしい。でも、強調すべきは、伝統がいざなう新しい未来だ」と力説した。ノートパソコンを開き、映像を見せる。伝統的なモチーフのひとつである木の葉が消えたり、現れたりする。「これを、会場に置いた生地の上に影絵のように映し出す。まるで織物が生きているみたいでしょう。お客さんはきっと写真に撮って、ネットで世間に広めてくれる」。社長の細尾は「おもろいこと考えるなあ?」とうなった。「こうすればモダンな文脈で理解してもらえる。日本的でありすぎないことが大事だ」とリッケは言う。




活路求めて海外市場へ


京都府のまとめによると、西陣地域の織物出荷額は1991年に3150億円だったが、2013年は220億円。ピークの1割以下にまで減った。危機感を募らせた細尾が10年ほど前に目を向けたのが海外市場だった。ディオールといった有名ブランドの旗艦店や高級ホテルに、壁紙やソファ地として売り込むと、注文が来るようになった。世界に織物は数あれど、「金銀の箔を絹糸とともに織り込めるのが我々の強み。しかも薄くて軽い」と細尾はいう。


ただ、手持ちの機(はた)では最大で70センチ幅しか織れず、用途が限られる。そこで1台1500万円かけて幅150センチを織れる機を独自に開発。5台が輸出専用でフル稼働中だ。細尾は「新しいことをして攻めなければ、着物の伝統も守っていけないし、消えていきますよ。布の世界でフェラーリを目指します」と話す。着物の製造販売を含めた同社の売り上げは年間15億円。うち輸出は年間1億5000万円に達し、毎年20%ずつ増えている。


古くからの着物の産地として知られる新潟県十日町市でも、生き残りをかけた模索が続く。雪深い1月末、染色加工業を営む「魚沼整染」の工場を訪ねると、1台500万円のインクジェットプリンター10台が着物を「印刷」していた。「いまはまだくすんだ色合いですが、蒸すと鮮やかに発色するんです」。社長の涌井安次郎(43)が説明する。


この日は大阪市の呉服店「居内商店」からの依頼で着物を刷っていた。社長の居内久勝(47)は「プリント着物はたくさん出回ってきましたが、お客さんには隠されていた。でも僕らはインクジェットをポジティブに使いたいんです」と話す。素材は木綿やポリエステルが中心。数十万円にもなる絹よりだいぶ安く、3万~5万円で売りに出せる。



「着物を着たい人はたくさんいる」


小売店主の居内らが自ら着物の生産に乗り出したのは、客から強い要望があったからだ。15年ほど前、あまりにも着物が売れないため、とにかく在庫を処分しようとネットで通販を始めた。呉服店としては先がけだった。


すると、呉服店の敷居の高さを敬遠していた人たちに面白いように売れた。そのうち「家で洗いたいから綿とかポリエステルの着物を作ってほしい」「こんな柄の着物は作れないのか」と、ネットなどを通して具体的な意見が寄せられるようになる。


もっとデザイン性の豊かなオリジナルの着物を作りたいと考え、デジタル技術とインクジェット印刷に思い至った。伝統的なメーカーに頼むとなると、ある柄の着物を数枚だけ作るのは難しい。インクジェットなら、パソコンで作ったデザインを簡単に少量で印刷できる。著作権に問題がなければ、中古着物をデジタル写真に撮って復刻生産することもできる。大量の在庫を心配することもない。


居内は「着物業界はお客さんがほしいものを作り、売っていなかった。着物を着たい人はこんなにいたんだなあと痛感する毎日です」と話す。



(田玉恵美)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


目指す布のフェラーリ

販売不振の活路を求めて海外市場の開拓に挑む京都・西陣の老舗織物業者を訪ねた(撮影:田玉恵美、機材提供:BS朝日「いま世界は」)




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