RSS

メンタルヘルス

[Part3]神庭重信・九州大大学院教授(精神医学)に聞く










うつ病の患者は1990年ごろまで、今よりもずっと少なかった。1カ月で体重が3キロも5キロも減って、夜もほとんど眠れない。入院しなければ体が衰弱してしまう。自殺しそうで目が離せない。妄想がある。そのくらい重い状態の人だけをうつ病と呼んでいた。ところが、有名人がうつ病だとカミングアウトしたりして、うつ病に対する偏見が減って、精神科の垣根が低くなると、症状の軽い人たちが多く受診できるようになった。


私は大学病院に加え、企業の診療所でも30年ほど診ているが、当時と比べて、軽いうつ症状の人が受診しやすくなったと思う。軽い人の場合には「適応障害」と診断することも多い。一方で、職場の労働環境も変わった。昔と違って、新人に早く一人前になることが求められる。特に正社員には高いスキルとノルマが求められる。そのような環境にうまく適応できない人たちが増えているように思う。


病気で休んだ後に復帰するのも難しくなった。合理化が進み、復帰時のリハビリに向いた負担の軽い職場が少なくなり、体調を崩した元の職場に戻るしかないことも少なくない。休職期間内に戻れないと退職せざるをえない。


軽い心の病が増えているのは、世界的な流れだろう。職場に適応できないでうつになった人たちをどうやって治すか。オーストラリアの医師は「簡単だよ。職場を移ればいい」と言っていた。日本ではそんなに簡単に転職はできない。今の日本は、グローバル化した競争社会と、以前からのタテ型社会の文化がミックスされて、患者さんにとって苦しい状況が生まれているように思う。元の職場に戻れなくとも、本人が新たな道を選んで、再びやりがいをもって頑張れるようになれば、それも治療のゴールかも知れない。


そもそも、うつにならないためにどうすればいいか、絶対的な答えはない。まずは仕事を少し忘れて、趣味や運動の時間をもってみよう。仲間との交流も大切だ。そして心にも、健康的な生活習慣が大事なことも忘れてはいけない。


(聞き手・左古将規)

(次ページへ続く)






この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示