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メンタルヘルス

[Part2]漫画「ツレうつ」の細川貂々夫妻に聞く












夫婦でうつ病と闘った日々をユーモアを交えて描いた漫画家の細川貂々(45)、ツレ(本名・望月昭、50)夫妻に病との向き合い方を尋ねた。





──病気のきっかけは何ですか。


ツレ 外資系IT企業で働いていたが、リストラで徐々に社員が減り、30人いた部署が5人になった。仕事の量も種類も増え、職場の会話も減った。そのうち夜眠れなくなった。僕は遅刻や欠勤ができない性格なので必死で出社するが、ミスを連発してしまう。どうしていいかわからず、通勤途中に電車に飛び込みたい衝動に駆られた。ある朝、妻に「死にたい」と打ち明けた。


貂々 家ではあまり会社の話をせず、愚痴も言わないので気付かなかった。すぐに病院に行かせたら「うつ病」と。仕事がストレスの原因なら会社を辞めればいいと言ったが、本人は踏み切れない。やがて髪の毛が真っ白になり、顔も土気色になって、最後は「辞めないと離婚する」と言って辞めさせた。


レ ただ、病気の時は判断力が弱っていて、仕事や夫婦関係など直接の原因にみえるものを切り捨てようとしがち。環境の急な変化は逆にストレスになるので、ひとまず休むことをすすめる。


──うつ病になるとは思わなかった?


貂々 実は、前向きで頑張り屋のツレがマイナス思考の私を励ます役だった。まさか彼が、と。


ツレ いま思えばリストラの対象にならず、増えた仕事をこなす自分への過信があったかも。どんなに前向きな人も過度のストレスにさらされ続ければ調子を崩す。誰にでも起こる病気だと思う。


──家族はどう支えたのですか。


貂々 すぐに双方の両親や友人、知人に事情を話した。周囲の助けが必要だと思った。おかげで、夫が急に調子が悪くなり、会合の途中で帰ったり、失礼な態度をとったりしても、おおらかに受け止めてもらえて助かった。


ただ、特別扱いはしなかった。ムッとしたら怒っていい。相手が落ち着いてから「病気でイライラしていたんだね」などと言って、病気がそうさせたのだと気付かせる。大事なのは「カーテン1枚隔てた距離」。支える家族も自分の時間や空間を大切にしたほうがいい。私は好きな本を読む時は部屋のふすまを閉め、週1回は気分転換で外出もした。


ツレ 病気の間は「人に迷惑ばかりかけている」というマイナス思考が強いので、妻も気楽にやっていると思えるほうが、こちらとしても楽だった。


illustration:Hosokawa Tenten




──当時、言われてつらかったことは。


ツレ 「○月までに良くなって旅行に行こう」などと期限を切られるときつい。最初の半年は自分も早く病気を治して働かなければと焦り、「失業保険が切れるまで」「40歳まで」と期限を決めていた。でも、うつの症状は振り子のように揺れる。調子がいい日に先の予定を入れても、当日調子が悪くてキャンセルすることが重なり、自分を責めて、かえって症状を悪化させた。


貂々 うつ病の人は「自分は何の役にも立たない」という思いが強い。ゴミ出しなど、小さなことでも役割を決め、できたらほめ、できなくても怒らない。「○○までに良くなろうね」ではなく、今できることを「やってくれない?」と。


──病気をして変わりましたか。


ツレ 病気になる前はすべてを効率や能率で考えていた。ムダだと思っていたことが実は人生には大事だと気付いた。


貂々 自分たちが幸せだと思える生活は人それぞれ。「世間はこうだから、こうあらねば」という、自分の中の「世間のものさし」を捨てることも、心の病を乗り越えるひけつかもしれない。


(聞き手・後藤絵里)






ほそかわ・てんてん

1969年生まれ。漫画家・イラストレーター。うつ病になった夫との闘病生活を描いたコミックエッセー『ツレがうつになりまして。』(幻冬舎)がベストセラーに。映画やテレビドラマにもなる。『ツレと貂々、うつの先生に会いに行く』(上のイラストを収録)、『ツレはパパ1年生』(ともに朝日新聞出版)などの著書も。2008年に長男誕生。


もちづき・あきら

1964年生まれ。2004年、突然うつ病になる。06年12月以降、主な症状は治まり、薬も飲んでいない。現在は専業主夫として家事・育児を一手に担い、夫婦の個人事務所「てんてん企画」社長も務める。





(次ページへ続く)






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