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メンタルヘルス

[Part3]宇宙飛行士もうつに? 地上から点検







外出はできず、仕事も食事も睡眠も同じ建物内ですませる。顔をあわせるのは同僚5人だけで、会話はすべて外国語。職場以外の友人とスポーツやカラオケで発散もできない。そんな生活が長期間、続く……。


こんな「閉鎖環境」で仕事をするのが、米ロと欧州、カナダ、そして日本がつくった国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する宇宙飛行士たち。


「宇宙放射線が多いうえに、人間関係が固定化し、ストレス解消手段が少ない。産業医学的には究極の有害職場といえるかもしれません」。筑波大学で産業精神医学・宇宙医学グループを率いる教授、松崎一葉(いちよう、54)はいう。多くの企業の産業医として活動すると同時に、宇宙飛行士たちのメンタルヘルスの研究を進めてきた。


宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、宇宙ステーションで長期滞在することを念頭に、宇宙飛行士の選抜を始めたのが、1999年に古川聡、星出彰彦、山崎直子を選んだ時からだ。


最終試験に残った8人(2009年の選抜では10人)を、大型バス2台ほどの大きさの「閉鎖環境適応訓練設備」に入れて、外界と遮断。1週間共同生活をしながら、様々な課題をこなす様子を、5台のカメラで観察する。「重視したのは、多文化環境に柔軟に対応し、自分が要求されている役割を把握する資質」と、松崎らとともに試験を企画した有人宇宙ミッション本部の井上夏彦(46)。




ロシアでは被験者同士で殴り合い

JAXAの閉鎖環境適応訓練設備/photo:Hamada Yotaro


こうして選んだ人材を宇宙に送り込んだ後は継続的な支援が大切になる。宇宙ステーションに日本人宇宙飛行士が乗っている時には、2週間に一度、精神・心理の専門家によるカウンセリングをテレビ電話で地上から行う。気分や睡眠の状態をチェックしつつ、気軽な雑談をしながら気晴らしの方法を相談し、後から録画したテレビ番組を送ったりもする。


宇宙ステーションにおける協調性を重視した選抜や、手厚い心の支援は、いつの時代も同じだったわけではなく、過去の「失敗」の教訓が生かされている。


90年代に米ロの間で行われたシャトル・ミール計画では、地上管制官の無理解から長時間労働を強いられたり、協調性に難ありの人材が送り込まれて人間関係が悪化したりして、うつ状態に陥った宇宙飛行士が複数出たという。その過酷な状況は、『ドラゴンフライ ミール宇宙ステーション・悪夢の真実』(ブライアン・バロウ著)に詳しい。


日本の宇宙開発事業団(JAXAの前身)も参加して99~2000年に実施されたロシアの閉鎖施設での実験では、被験者同士の殴り合いや、セクハラ事件が勃発。当事者ではないものの、強いストレスを感じた日本人被験者が110日間の予定を切り上げ60日で退出するという予想外の事態が発生した。


「宇宙ステーションでの暮らしも、普通の生活と同じ人間くさいところがある」と話すのは、宇宙飛行士の山崎直子(44)。著書『何とかなるさ!』の中で、介護施設で暮らす親戚を見て抱いた感慨をこう書いている。足腰が不自由で移動や外出もままならず、周囲の入居者やスタッフも基本は同じ顔ぶれ。様々な配慮はされていても、これは「閉鎖環境での生活」ではないか……。


宇宙ステーションでのストレスの管理やメンタルヘルスケアの研究成果は「介護施設など地球上での『閉鎖環境』で暮らす人々に役立つ部分がきっとある」と山崎はいう。


(浜田陽太郎)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


閉鎖環境適応訓練設備を訪ねた

(撮影:浜田陽太郎、機材提供:BS朝日「いま世界は」)




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