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メンタルヘルス

[Part2]患者増の背景に啓発キャンペーン?










心の病の増加と並行して、薬の市場も急拡大している。


世界の医薬品市場を調べている調査会社・総合企画センター大阪によると、抗うつ薬の2014年度の市場規模は日本、米国、欧州で合わせて約5600億円。巨大な市場が生まれた背景には、1980~90年代に登場した新世代の薬が果たした役割が大きい。


米国のイーライリリー社が88年に発売した抗うつ薬「プロザック」は、「従来の薬に比べて副作用が少ない」と強調され、世界的にヒットした。同じタイプの薬が日本でも99年に登場し、広く普及した。


日本で最大のシェアを獲得した英国系のグラクソ・スミスクライン(GSK)を始め、新しいタイプの抗うつ薬を日本に導入した製薬大手は、うつの啓発キャンペーンを積極的に展開した。うつを経験した著名人らを広告に起用し、うつは誰でもなりうるが、休養と薬で治る、というメッセージを繰り返し伝えた。GSKの広報担当者は「うつ病の正しい理解と偏見の払拭(ふっしょく)を目指し啓発してきた」という。


精神科の薬に詳しい杏林大教授の田島治は指摘する。「病気の啓発は、困っている人が気楽に病院に行けるようになるというプラス面がある。一方で、人生の悩みからくる不安や落ち込みまでが病気と診断され、薬で治療されるようになった。本来は薬で治すべき状態でないので薬が効かず、別の薬も試されて、どんどん薬が増えていくというケースも出てきた」


マーケティング会社・富士経済によると、抗うつ薬の日本国内での市場規模は、98年の173億円から13年には1176億円と7倍になった。


米国ではさらに抗うつ薬が身近だ。90年代に米国に留学していた九州大大学院教授で精神科医の黒木俊秀は「恋愛で悩んで不登校になった高校生にも抗うつ薬が処方されていて驚いた」と話す。厚生労働省の研究によると、米国で抗うつ薬を処方された人は96年の人口の5.8%から05年には10.1%まで増えた。


ただ、抗うつ薬ビジネスは曲がり角を迎えている。80~90年代に登場した抗うつ薬は10年たって次々と特許が切れ、次世代の有力な薬も見つかっていない。新薬開発をリードしてきた製薬大手にとって、以前のような巨額の収入は見込めなくなった。GSKは10年、うつ病の新薬開発から撤退を表明。抗うつ薬の米国での市場規模は11年度の約5400億円から14年度には半減すると見込まれている。


(左古将規)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)





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