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WHO?

[Part2]修正を迫られた福島被曝報告










福島第一原発事故以降、子どもたちの内部被曝検査が行われた
photo:Hitomi Masaaki

厚生労働省幹部の携帯電話が鳴った。2011年11月の土曜日の朝のことだ。


「大変です」。東京電力福島第一原発事故の対応を担う後輩からだった。WHOが作成中の原発事故に伴う被曝(ひばく)線量報告書の草案を目にしていた。福島県浪江町の乳児の甲状腺局所の被曝線量が300~1000ミリシーベルト、東京や大阪の乳児も10~100ミリとの数字が並んでいた。チェルノブイリに関する国連科学委員会の報告では、約6000人に甲状腺がんが見つかり、避難民の甲状腺被曝は数百ミリシーベルトとされた。50ミリ以上で甲状腺がんが増えていたとの論文もある。


「WHOの推計は実態とかけ離れて高い」。日本政府は、食品検査結果など新たなデータを提供するなどして修正を働きかけた。


翌12年5月にWHOが公表した報告書は、浪江町の乳児の甲状腺被曝線量は100~200ミリシーベルト、東京や大阪は1~10ミリに下がった。日本政府は「まだ実態と乖離(かいり)している」と、当時の厚労事務次官、阿曽沼慎司がマーガレット・チャンに遺憾の意を伝え、公表直前まで修正を迫った。


翌13年2月、WHOはその推計に基づき、「福島県民の大半は、がんが明らかに増える可能性は低い。一部の乳児は甲状腺がんのリスクが高まる恐れがある」との健康リスク予測を出した。最も影響がある場合、生涯で甲状腺がんになるリスクが約1.7倍になるとした。


WHOで被曝問題を担当する常勤職員は3人。福島の報告書は、WHOから協力を依頼された、世界の放射線の専門家たちが実質的には担った。


国連科学委員会が今年4月に出した報告書は、原発20~30キロ圏内にいた乳児の甲状腺被曝線量は47~83ミリシーベルトなどとWHOの半分程度と推計した。両方の報告書にかかわったロシア放射線衛生研究所教授のミハイル・バロノフは「後からできた国連の報告書は、住民の避難行動も反映し、実態に近い」と説明する。「過大評価」との批判に対し、WHOの責任者、エミリー・ファン=デベンターは「推計の不確実性を考えると、国連と違いはない。WHOの使命は人々の健康を守ること。リスクの過小評価だけは絶対に避けなければならない」と話した。





(大岩ゆり)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)






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