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WHO?

[Part1]外交力試される事務局長選







2006年5月のWHO総会はもくとうで始まった。現職の事務局長、李鍾郁(イ・ジョンウク)が急死したからだ。その一方で、会期中から水面下で後任選挙に向けた活動が始まった。


日本政府は当時のWHO西太平洋地域事務局長、尾身茂(65)を推した。ポリオや新型肺炎SARS対策で成果を上げていた。


事務局長は、34カ国で構成する執行理事会の秘密投票で決まる。尾身や、厚生労働省や外務省の幹部、政治家は、日本以外の33カ国をすべて訪問した。


選挙戦は外交交渉の側面も大きい。「WHOで日本を応援してくれたら別の国際機関の選挙で応援する」「協力してくれたら、途上国援助(ODA)で配慮する」。尾身の選挙に携わった官僚によると、こんな交渉もされるという。


WHOを担当する厚労省には、当時副大臣だった参議院議員、武見敬三を「本部長」とする、非公式な選挙対策本部ができた。




「暗黙の了解」破った中国

マーガレットチャン事務局長/photo:Matsuo Ichiro

担当者は、33カ国の一覧表に◎、○、△、×を付けていった。◎は決定権を持つ人の署名入りで支持を表明してくれた国。○は口頭での支持約束。△は未決定か、最初の投票は地域の候補者に入れるが2回目以降は尾身に入れるなど条件付きの国だ。


選挙戦序盤の7月、選対本部に衝撃が走った。中国政府が、当時WHO事務局長補だったマーガレット・チャンの推薦を決めたからだ。国連安全保障理事会の常任理事国は、WHOなど国連の専門機関のトップに候補者を立てないのがそれまでの暗黙の了解だったという。結局、チャンは、中国と関係の深いアフリカ諸国だけでなく米国の支持も集め、中国・香港出身で初の国連機関のトップとなった。


WHOの事務局長はこれまでに7人。1988年から2期10年務めた中嶋宏も、任期中に亡くなった李も、それぞれ日本や韓国で初の国際機関のトップだった。「力をつけてきた国が国際的な存在感を示すのにWHO事務局長はいいポストだ。健康という重要な分野だし、各国の利害関係が鋭く対立することも少ない」と厚労省幹部はみる。


中嶋は東京医科大を卒業後、パリ大で約15年間、薬が神経などに及ぼす影響を研究した。仏製薬企業を経てWHOの薬剤政策管理部門長に就任。78年に西太平洋地域事務局長に選ばれ、88年に事務局長に選ばれた。ワクチンの拡充や、誰でも使えるようにすべき「必須医薬品モデルリスト」などの業績で知られる。




米国が守る「保健安全保障担当」ポスト


外務省から出向して事務局長顧問を務めた赤阪清隆は「中嶋さんは、95年にザイール(現コンゴ民主共和国)で発生したエボラ出血熱の流行など感染症の非常事態には確実に指導力を発揮した」と振り返る。ただ、欧米諸国とは予算や人事をめぐって折り合いが悪く、批判を浴びた。


事務局長は選挙で選ばれるので実務では権限が大きいが、あくまで事務方のトップだ。主要な方針転換や予算執行は執行理事会や総会の同意が必要だ。


米国は、いまケイジ・フクダが担う保健安全保障担当の事務局長補に代々、米疾病対策センター(CDC)出身の専門家を送り込んでいる。


ある国連機関の外交官はその理由をこうみる。「保健安全保障担当の事務局長補には、未知の感染症の流行など安全保障の脅威となる事態について、真っ先に情報が入る。米CDCは優れた情報収集能力を持つが、イスラム諸国の一部など関係の悪い国の情報は入手しにくい。それを補うのがあのポストだ」


(大岩ゆり)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)






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