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WHO?

[Part2]インフル監視、中国の背中押す






鳥インフルエンザ(H7N9)に備え子どもたちの検査をする=中国山東省
photo:Aflo

WHOが世界的大流行(パンデミック)をもっとも警戒する感染症はインフルエンザだ。ウイルスが変異しやすく、20世紀以降、死者2000万~4000万人とされるスペイン風邪(1918年)をはじめ4回の大流行が起きた。


WHOを頂点とするピラミッド型の監視網で、新しいウイルスの出現に目を光らせる。WHOの下に、日本の国立感染症研究所(感染研)や米国の疾病対策センターなど5カ所のインフルエンザ協力センターと、1カ所の動物インフルエンザ協力センター(米国)があり、その下に、各国の組織141カ所がある。


世界5カ所の協力センターのうち、一番新しく加わったのは2010年に認定された中国疾病対策センター(中国CDC)のインフルエンザセンターだ。


今年10月末、中国CDCを北京市郊外に訪ねた。正門から本部棟まで1キロ以上ある広大な敷地の中で、職員約2000人が働く。全国31の地方CDCとテレビ会議ができる部屋もある。実験室には、患者の血液を一日1000人分調べられる検査ロボットや、遺伝子解析の機械がずらりと並んでいた。


協力センターになる条件は厳しい。国内の監視網の整備や情報分析、ウイルス解析など様々な能力が求められ、WHOの現地調査に「合格」しないと認定されない。中国CDCは、2度目の挑戦で認定された。「認定されるためにWHOの要求する水準を満たそうと努力した結果、中国全体の感染症対応能力が上がった」。中国CDCインフルエンザセンター長の舒躍龍(44)はこう語る。




「新しい病原体」に速やかに対応

北京にある中国CDCの本部
/photo:Oiwa Yuri
(朝日コネクトから動画をご覧いただけます)

認定までの過程で中国の監視能力は強化された。その高さを世界に示したのが昨年、上海市で初めてヒトへの感染が確認された新しい鳥インフルエンザウイルス(H7N9)への対応だった。


昨年2月26日、復旦大付属華山病院教授の盧洪洲(48)ら感染症の専門家が第五人民病院に駆けつけた。重い肺炎で入院していた男性(57)を看病していた父(87)と兄(69)が相次ぎ重い肺炎を起こして入院したからだ。


盧は、感染症に特化した上海公共衛生臨床センターで、インフルエンザなどの対策チームを率いる。まっさきに疑ったのは新型肺炎SARSの再来だった。03年に中国を中心に大流行し、約900人が亡くなった。


だが、患者からは、SARSや、ヒトに感染すると致死率が5割とされる鳥インフルエンザ(H5N1)のウイルスは見つからなかった。


「われわれは大きな魚を釣ったかもしれないぞ」。盧は、病原体の解析担当者に言った。ヒトが感染したことのない新しい病原体の可能性が出てきたからだ。


患者ののどから採取した検体は、中国CDCインフルエンザセンターに送られた。3月30日、患者から見つかったウイルスは、新しい鳥インフルエンザウイルス(H7N9)と判明した。中国政府はWHOに速報。中国CDCは国内の検査態勢も直ちに整えた。




インフルエンザのホットスポット


WHOは、一連の中国の対応を「世界のモデル」と高く評価する。迅速で、透明性が高かったからだ。


「H7N9では、中国で発生したウイルスを自分たちで解析し、世界に公表できた。SARSの時とはまったく違う。誇りに思う」。盧は振り返る。


中国は約10年前のSARSへの対応で国際的な批判を浴びた。患者発生状況も正確に把握できず、WHOへの報告から封じ込めまで対応が遅かった。WHOは中国広東省と香港に、史上初の「渡航延期勧告」を出した。人的被害だけでなく、経済的な被害も大きかった。


その後、中国は「SARSの教訓に学べ」と、国を挙げて感染症対策を推し進めた。SARS発生前の00年、病原体の検査ができる機関は全国に8カ所、患者ののどの粘液などを採取する拠点病院は31しかなかった。しかし、09年にはそれぞれ411と556に。毎週1万人以上の患者につき、新たなウイルスが出ていないか調べている。


「中国の監視態勢や対応能力が上がったことは、WHOのパンデミック対策にとっても大きな意味がある」と日本の感染研の前インフルエンザウイルス研究センター長の田代真人(66)は指摘する。


中国は「インフルエンザのホットスポット」と呼ばれ、新しいウイルスの集積地だからだ。ウイルスの「運び屋」であるカモが多数飛来し、家禽(かきん)や豚も多く、動物の体内でウイルスが変化しやすい。毎年の流行を予測して作る季節性インフルエンザワクチンの半数以上は、「中国産」の新しいウイルスをもとに作られる。


監視や検査などを中国自らができ、すぐに情報やワクチン開発などに必要なウイルスを世界で共有できれば、WHOは専門家の派遣などの負担が軽減される。


「新しいウイルスの出現を止めることはできない。影響をできるだけ小さく抑えるしかない。異常を素早く探知し、国際的に情報共有して注意喚起することが大切だ。WHOの協力センターとして、世界に貢献したい」。中国CDCの舒は強調した。




(大岩ゆり)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)





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