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WHO?

[Part1]エボラ大流行があぶり出した危機






WHO本部の地下にある「戦略保健指揮センター」
photo:Matsuo Ichiro

ジュネーブにあるWHO(世界保健機関)本部では毎朝、西アフリカで大流行しているエボラ出血熱の対応を打ち合わせる。場所は地下に設けられた「戦略保健指揮センター」、通称「ショック(SHOC)」。11月初旬、会議冒頭の取材と写真撮影を許可された。


壁には何台ものモニターがかけられ、エボラ出血熱の感染者数や死亡者数を表すグラフ類、そしてギニア、シエラレオネ、リベリアを中心とした西アフリカの地図が映し出され、いくつもの円が散らばっている。


「感染者数を円の大きさで表示しました。ホットスポットが首都にあるのが分かります」。説明者の口調は淡々としていたが、流行が人口密集地を襲って急激に犠牲者を増やした様子を雄弁に物語っていた。


WHOのスタッフ30人ほどが詰めかけ、立ち見が出る混雑ぶり。ここが、世界6カ所の地域事務局と150の国・地域別事務所に散らばる約7000人の職員を結ぶ危機対応の中枢を担う。


昨年から始まったエボラ出血熱の流行による死者数は12月上旬には6000人を超えた(右の表参照)。




能力の限界超える

医療・人道援助を行うNGO「国境なき医師団インターナショナル」会長のジョアンヌ・リューは9月2日、国連での演説で「私たちは数カ月にわたり警鐘を鳴らしてきたが、国際社会の対応は不十分でスピード感に欠けていた。公衆衛生上の国際的緊急事態は8月8日まで宣言されなかった」と非難した。「医師団」は、3月以降、250人以上の国際スタッフを含め約3500人を投じてきた。


非難の矛先は、「宣言」を出す権限を持つWHOに向いていた。WHO自身の役割は、医師団のように現場で直接、治療にあたることではない。だが、「国際的に対応すべき緊急事態」を認定し、世界中の国の保健担当部局やNGOからのヒト・モノ・カネの流れを連絡・調整する責務を負う。権威あるWHOが「宣言」を出せば、各国に支援を促す合図にもなる。実際、今回も宣言後に米国が3000人規模の軍隊派遣を決めるなど、政府レベルの支援が本格化した。


リューが呈したのと同じ疑問は、8月8日朝、ジュネーブで行われたWHO事務局長、マーガレット・チャン(67)の会見でも、記者から浴びせられていた。


「フランクにいきましょう」。チャンは説明を始めた。「(WHOは)過去数カ月間、中央アフリカやシリアなど四つの人道危機と、エボラ出血熱や鳥インフルエンザ(H7N9)、中東呼吸器症候群(MERS)という三つのアウトブレークに対処してきた。その中で、私たちはWHOの持てるもの全てを動員してきた」。状況が能力の限界を超えたことを事実上、認めた。




リストラが招いた人材不足

エボラ出血熱感染の疑いがある9歳の少女を救急車に運ぶ=リベリア
photo:Aflo

会見でチャンの横に、7人いる事務局長補の一人、ケイジ・フクダ(59)が控えていた。米国の疾病対策センター(CDC)出身で、担当分野はエボラ出血熱やインフルエンザなどの危機から世界を守る保健安全保障(ヘルスセキュリティー)だ。


ある主要資金拠出国の外交官は「フクダは有効に対処するリソース(ヒト、カネ)を持っていなかった」と明かし、特に経験を積んだ人材の不足を問題視する。


WHOはここ数年、リストラの大なたをふるっていた。2010年末に8273人いた職員が、12年7月末には7336人に。1割以上の937人が削減された。


直接のきっかけは、10~11年の為替変動だ。本部があるスイスで給与支払いに使われる通貨スイスフランの価値が対米ドルで急騰し、ドルベースで組む予算の収支バランスが崩れた。


フクダの部下、イザベラ・ヌタール(50)は「初期消火」の重要性を強調する。世界では絶えず、健康に影響する事象が起きている。それを迅速に感知して、「小さな火」のうちに消し止めるよう各国を促し、支援するのが最も効果的だ。たとえば、病原体を解析するための施設整備とスタッフの育成、空港や港での監視態勢の構築を手助けする。「しかし、最近は大火事が起きていないから消防にお金を使わなくていい、となってしまった」と加盟国間の風潮を嘆く。




問われるのは加盟国


そんな事態を招いた遠因が、09年の新型インフルエンザ(H1N1)への対応が過剰と見なされたことだ。このときも、WHOは緊急事態を宣言し、警戒水準を最高度に引き上げ、日本を含む各国はワクチンや治療薬を大量に確保した。だが、症状が予想より軽い人が多く、WHOの判断に疑念が生じた。


ただし、リストラが引き起こすマイナス面への警鐘は鳴っていた。11年に開かれたWHOの国際保健規則(IHR)に関する専門家委員会は、「現在、WHOの危機対応力は、慢性的な資金不足に使途の制約が加わり、極めて弱体化している」とし、「1億ドルの基金を積んで能力強化を図るべきだ」などの提言をまとめ、年次総会に提出していた。だが、お金はつかず実現しなかった。


「国境なき医師団スイス」の責任者ブルーノ・ヨッフムは11月下旬、ジュネーブで外交官ら専門家向けに談話会を開いた。その後、WHOについて尋ねると、「WHO自体についてどうこう言う前に、加盟国に対して『WHOの役割をどう定義したいのか』と問いたい」と返してきた。


前出の主要拠出国の外交官は、個人的見解と断った上で、こう認める。「加盟国は、WHOに様々な仕事を期待しながらも、それに見合ったお金を出してこなかった」


(松尾一郎、浜田陽太郎)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)



エボラとWHO

エボラ出血熱の大流行に対するWHOの取り組みと課題を取材した(撮影:浜田陽太郎、松尾一郎、機材提供:BS朝日「いま世界は」)


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