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動物園、来てみる?

[Part3]動物園に魅せられるわけ/作家・乃南アサ





illustration:Abe Hiroshi

動物園は、不思議な所だ。地球上の全く別の所にすんでいるはずの生き物が集まって、目の前で生きて動く姿を見せてくれる。多くの動物は、人間とはかけ離れた姿形をしているが、時々、とても人間らしい振る舞いをする。見れば見るほど発見があり、実に楽しい。


動物園は身近にありながら、現実逃避できる空間のように思う。日常に疲れたら、動物園に行って、好きな動物を見つけて、じっくりと眺めてみたらどうだろう。


サル山で子育てするメスザルには、人間の母親のような苦労が見える気がする。子育てのヒントが見つかるかもしれない。仕事に忙しいサラリーマンが、のんびりした動物たちを見たら、癒やしと安らぎを得られるように思う。


子どもにとっては、「いのち」の大切さを学べる場所になるだろう。「キリンはあの大きな目で何を見ているのか」「ライオンの声はなんて大きいんだろう」。そうやって、単純に人間とは違ういのちに触れたら、面白いと感じるはずだ。それから、少しずつ、「もしも」に思いをはせることはできないだろうか。


もしも、あの立派なゾウやサイがいなくなったら、どうだろうか、と。いま、アフリカゾウは1年間にどれだけ密猟されていることか。野生動物は、勝手に数が減り、消えるわけではない。私たちにも、同じようにいのちがあり、一つひとつかけがえのないものだ。


動物園巡りをするうちに、自然に生きる野生動物を見たくなり、アフリカ・ケニアに飛んだ。果てしない大地を駆ける野生動物の「生」と「死」を目の当たりにした。動物園の動物は、野生動物に比べ、ひ弱に見えないこともない。何よりもそこには自由がない。動物園には、何とも言えないもの悲しさがついて回る。でも、だからと言って、野生の生き物より劣るとは考えたくない。


どんなに管理下に置かれても、彼らはペットではない。人間に決して屈服していないし、向こうは向こうで、対等に人間という生き物を眺めているように、私には見える。でも、残念ながら、動物園の動物を、単なる見せ物として眺める人たちも少なくないようだ。禁止されているのに、エサやいろいろなものを投げ込んで、カメラのフラッシュをたく。


それは、動物を「上から目線」で見ているからではないだろうか。人間が観察されていると思いながら、動物と向き合ってみたらどうだろう。きっと、「いのちって、すごい」と感じることができるはずだ。



(構成・内田晃)






乃南(のなみ)アサ

東京生まれ。1988年「幸福な朝食」で作家デビュー。96年「凍える牙」で直木賞受賞。著書「いのちの王国」で全国の動物園、水族館を巡ったエッセーをつづる。8月下旬、「それは秘密の」(新潮社)を刊行予定。53歳。






(今回の「編集長から」は「子ども心いまでも」です)



取材した記者


内田晃(うちだ・あきら)

1973年生まれ。政治部などを経てGLOBE記者。ゴリラやゾウ、キリンの目に、人間はどう映るのか。展示の向こう側の動物を見ると、そんな思いがよぎる。


藤えりか(とう・えりか)

1970年生まれ。ロサンゼルス支局長などを経てGLOBE記者。フロリダでキリンを眺め、殺処分はやはり理解できず、悩む。科学者にはなれないのか。


江渕崇(えぶち・たかし)

1976年生まれ。経済部などを経てGLOBE記者。初めてアフリカを訪れた。20頭近い野生のゾウの群れに圧倒され、狭い檻で飼う罪深さを思った。



イラスト

あべ弘士

絵本作家。北海道旭川市生まれ。旭山動物園で25年間、飼育係を務めた。1981年に最初の絵本「旭山動物園日誌」を出版。絵本「あらしのよるに」(講談社)で講談社出版文化賞絵本賞など。66歳。







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