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動物園、来てみる?

[Part1]スイスで生態系丸ごと展示





[スイス・チューリヒ] ドーム展示内のプールで泳ぐアジアゾウ。サッカーコート4面分の敷地内を毎日、エサを求めて歩き回る/photo:AP/Aflo


バッシャーン!


体重2.6トンのメスのアジアゾウ、ファルハが、深さ4メートルのプールに飛び込んだ。丸太のような脚をばたつかせながら、頭まで水に潜った。長い鼻がムチのようにしなり、ガラス越しに巨体が迫る。「ウワーッ!」「ゾウさんが泳いだー」。ガラスにへばりついていた子どもたちから、大歓声が上がった。


スイス最大の都市チューリヒの小高い丘の上にあるチューリヒ動物園に6月7日、設計から7年かけたゾウの展示施設「ケーンクラチャン象公園」がオープンした。200頭の野生ゾウがすむタイの国立自然公園にちなんで命名した。


公開3日後に訪ねると、家族連れで大にぎわいだった。サッカーコート4面分にあたる約3万平方メートルの敷地内には、滝が落ち、丘が連なり、7頭のゾウが放し飼いにされている。目玉は、敷地の一角にそびえる高さ18メートル、直径80メートルのドーム状の建物だ。透明の樹脂でできた天井からは陽光が降り注ぎ、熱帯アジアの気候を再現。南国の植物が植えられ、冒頭のプールも設けられた。ゾウが自由に出入りする。


園長のアレックス・リューベル(59)は「野生のゾウと同じように食べ、遊び、眠ることができるよう、最大限の工夫をした」。エサは高い木の枝につるしたり、岩の穴の中に埋め込んだりして、施設内の40カ所に分散して置いてある。ゾウはエサを求めて歩き回り、途中で倒木を転がしたり、泥や砂を浴びたり、プールでじゃれ合ったりする。




目指すは「自然保護センター」



[スイス・チューリヒ]
 巨大なドーム内に熱帯雨林の植物を植え、動物や昆虫を放し飼いにし、アフリカの生態系を丸ごと再現した
/photo:Uchida Akira

チューリヒ動物園がこだわるのは、「動物が満足して暮らせるよう、本来の生息環境を再現することだ」(リューベル)。背景にあるのは、欧米で1960年代から広がってきた「動物福祉」の考え方だ。まずは、動物が満足できる飼育環境を整える。来場者に動物の生き生きとした姿に感動してもらい、寄付を含め自然保護活動に動いてもらう──。同園は91年、人と動物と自然をつなぐ「自然保護センター」に変身する30年計画を掲げ、一歩一歩、実現してきた。


その代表例が、2003年にオープンした1万1000平方メートルの巨大ドーム「マソアラ熱帯雨林」だ。アフリカ・マダガスカル島のマソアラ国立公園の密林を再現している。


[スイス・チューリヒ]
キツネザル
/photo:Uchida Akira

足を踏み入れると、むせ返るような熱気に包まれた。頭上をトキの仲間やオオコウモリが飛び交う。足もとの茂みに目をこらすと、体長30センチほどのカメレオンが歩く。その向こうには、池の水を飲むゾウガメ。木の看板には2頭のキツネザルが座っていた。生き物はみな放し飼いだ。ドーム内には500種類の植物が植わり、その6割以上が現地の植物園から持ち込まれた。4種類のサルを含む50種類の脊椎(せきつい)動物がすみ、ゴキブリやシロアリなど50種類の昆虫も放された。外の生態系に影響を与えないよう二重の鉄製扉などで密閉されている。


欧州では、ドイツのライプチヒ動物園など、動植物、気候、土壌などの生態系を丸ごと再現、展示する施設が次々と生まれている。チューリヒ動物園長のリューベルは「冬に零下まで冷え込むような欧州では、環境がコントロールできるドームで飼育するのは自然な流れだ」と話す。


民営のチューリヒ動物園は、運営費の4分の3は入場料や販売でまかない、残りは州と市の補助金に頼る。一方、ゾウ舎の建設費約64億7000万円、マソアラ熱帯雨林の同約59億円は、すべて寄付でまかなった。







人気種として動物園が展示したがるホッキョクグマやチンパンジーは、ここにはもういない。リューベルは言う。「飼育スペースを考えれば、すべての動物をそろえるのは無理だ。飼育するからには全力でやる」


(内田晃)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)




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