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Beer

[Part4]「工業の世紀」象徴する酒/玉村豊男(エッセイスト)








数多くある「お酒」の中で、ビールの特色は何なのだろうか。エッセイスト・画家として活躍しながらワイナリーを経営する玉村豊男さんにきいた。




photo:Tadama Emi


――ビールは飲みますか?


家ではワインの方が多いが、外では「とりあえず」の生ビールを飲む。最初のビールはおいしいね。でもビールだけ延々とは飲みません。おなかいっぱいになっちゃって食事が楽しめないからね。それと、休肝日にはノンアルコールビール。昔よりおいしくなったと感じる。


――なぜ最初はビールなんですか?


のどの渇きをとめるのが一番。あの炭酸のしゅわっていう清涼感がいい。一種の清涼飲料水として飲むんです。


――一番おいしく感じたビールは?


30年くらい前にチェコのピルゼンにある醸造所で飲んだピルスナーはおいしかった。数年前にはギネスビールをアイルランドの本社で飲みましたよ。2、3分かけて注ぐんだよね。泡をきっちりのせたビールってこんなにおいしいものかと驚いた。


――ワインとビール、何が違うのでしょうか。


ワインというのは、まず、ブドウ畑の横で飲む酒なんです。ブドウの出来栄えに左右される農産物でもある。でもビールは、原料の麦もホップも乾燥していてどこにでも運べる。冷やせて水を用意できればどこでもつくれるという装置産業です。だから、「工業国家」が増えるにつれ、世界中に広がった。工業の時代には均質であることが評価される。大量生産技術が確立したビールは、うってつけの酒。つまり、工業の世紀である20世紀を象徴する酒といえるでしょう。


――飲む側は、なぜビールを選んできたのでしょうか。


日本ではこれまで、ビールとサラリーマン社会が直結していたと思う。かつてのムラと同じで、選べない人間関係のなかでうまくやるための手段ですね。仕事が終われば、みんなでビールを飲む。泡が減らないうちに、すぐ飲まないといけないという制約がまた一体感を高めるのにいいんじゃない。「飲み会」は、酔っ払うのが目的で、しらふだと怒られる。そういう印象が強い。反対に、ワインは友人同士やカップル、家族で飲むというイメージで広がってきた。


――でも最近は、日本でも消費が鈍り気味です。


転換期といえるでしょうね。豊かな社会になると一人当たりのアルコール消費量は減る。酒には憂さを晴らし現実を忘れるために飲むという側面があるが、社会が成熟すると高級な酒をゆっくり飲む。量は減るし、あまり酔うことをよしとしない。しかも、大量生産ではなく手づくり、ローカルの時代になってきた。日本でも、21世紀になって、誰がどこでつくったものなのか分かることが重要になった。農業的な価値観が見直され、消費者は商品に物語を求め始めている。


――そこで飲まれる酒とは?


ブドウの品種やつくり手が品質に大きな影響を与えるワインは、物語がないと売れない酒です。こうしたワインに始まる価値観は、日本酒にも入ってきてますよね。蔵元が酒米を買うより、「杜氏が育てた米で酒つくりました」という方が受ける。好むと好まざるとにかかわらず、これからビールもワインの文法で動くようになるのでは。クラフトビール市場は日本でも伸びると思います。


――「クラフト」だけですか?


味でいえば、日本の大手メーカーのビールも、高級路線のものはどれもおいしくなっていると感じる。きちんとした背の高いグラスにきちんと泡を立ててゆっくり飲むことが大切です。もちろん、メーカーだの銘柄だの、しのごの言わないでパーッと飲むのもビールの良さだよね。あと、これは声を大にして言いたい。グラスに残ったビールにつぎ足すのはやめて。日本酒の飲み方を引きずっているのかもしれないけど、つぎ足されたビールは、やはりおいしくないですよ。


(聞き手・田玉恵美)




たまむら・とよお

1945年、東京生まれ。著書に『料理の四面体』『田園の快楽 それから』『パンとワインとおしゃべりと』など。長野県東御市で農園「ヴィラデスト」を経営。


(今回の「編集長から」は「みなさんに乾杯」です)



取材にあたった記者


鈴木暁子(すずき・あきこ)

1973年生まれ。経済部などを経てGLOBE記者。ドイツ取材でヴァイツェンの大ファンに。取材先でつい飲みすぎ、ミュンヘンの街で迷子になった。


田玉恵美(ただま・えみ)

1977年生まれ。文化くらし報道部を経てGLOBE記者。酒は苦手。酔っぱらいはもっと苦手。酔っぱらって初めて本音を言う人はさらに苦手。


稲垣康介(いながき・こうすけ)

1968年生まれ。欧州総局などを経て編集委員。焼き肉と餃子との相性の良さで言えば、冷えたビールは無敵に思える。ワインにも目がない。



静物写真


小寺浩之(こでら・ひろゆき)

1965年生まれ。雑誌編集者を経て静物写真の世界へ。日本写真家協会会員。


イラストレーション


橋本聡(はしもと・さとし)

1971年生まれ。桑沢デザイン研究所卒。雑誌、書籍、広告などで描く。



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