RSS

大学ってなんだ?

[Part5]大学は誰のために何のためにあるのか/三浦俊章 GLOBE編集長





photo:Kodera Hiroyuki

5年ほど前にアメリカの大学に研究員の資格で滞在したことがある。大学院教育に重点を置くところだったので、勉強には理想的な環境だった。


大学に発行してもらったIDでログインさえすれば、パソコンで授業の教材や参考文献をダウンロードできた。学術雑誌の論文もオンラインで自由に読めた。意欲さえあれば、知の地平線はどこまでも広がっていく。


残念ながら、そのすばらしい特権は、1年後に研究員の資格が切れると自動的に消えてしまった。ところが、大学の壁の中だけにあったあの知的世界が、無料オンライン授業「ムーク」のおかげで、だれでも手の届くところに来た。努力次第で、世界水準の教育が自宅にいながら享受できる。


しかし、いまの大学全体を見回してみると、こういう最先端の動きはまだ一部で始まったにすぎない。ムークに対抗する英国の伝統大学の個別指導も、お金も能力もあるエリートに許されたぜいたくという見方もあるだろう。


日本の大学を考えてみよう。全入時代が生んだ学力の低下。あいかわらずのマスプロ授業。水ぶくれした大学院。国際水準からみると乏しい高等教育への公費支出。状況は厳しい。


ムークを可能にした技術の発展とグローバリゼーションの大波は、すべての日本の大学に押し寄せ、生き残り競争を激化させている。戦前50に満たなかった大学は、1970年代に400校を突破し、いまや800に迫ろうとしている。18歳人口が減り続けているにもかかわらずである。このような大学のあり方が続くわけはないとだれもが感じている。


大学はかつて近代化に必要な人材を国家が育成する場だった。戦後は、高度経済成長を支える大量のホワイトカラーを供給した。いま必要なのは21世紀における大学の再定義である。


大学に入ってどんな教養を身につけるのか。社会は大学にどのような教育を期待するのか。その負担をどう担うのか。結局は、今号の表紙にある最初の問いにかえっていく。「大学ってなんだ?」というそもそもの問題を考えることだ。




(今回の「編集長から」は「大学は入ったけれど」です)


取材にあたった記者


金成隆一(かなり・りゅういち)

1976年生まれ。神戸支局などをへて大阪社会部記者。学生時代は、ゼミ以外では勉強した記憶がない。今回、自発的に学ぶ人々を取材し、深く反省した。著書に『ルポMOOC革命 無料オンライン授業の衝撃』(岩波書店)。


後藤絵里(ごとう・えり)

1969年生まれ。経済部などをへてGLOBE記者。最大500人収容の大教室の講義に疑問も抱かず、「楽単」探しにいそしんだ大学時代。日本の大学の窮状を招いた責任は学生にもあるかも。罪滅ぼしの思いを込めて取材した。


山下知子(やました・ともこ)

1977年生まれ。鹿児島総局などをへて西部報道センター記者。現在、教育を担当。学部の時は、発掘や選挙手伝いなどバイト三昧だった。大学院時代は一転、これまでの人生の中で最も猛烈に勉強した。



静物写真撮影


小寺浩之(こでら・ひろゆき)

1965年生まれ。雑誌編集者をへて静物写真の世界へ。日本写真家協会会員。


リサーチ協力


青木遥、服部紗英

…続きを読む

この記事の続きをお読みいただくためには、購読手続きが必要です。
GLOBE総合ガイド
  • ログインする
  • ご購読申し込み

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

「朝日新聞デジタル(フルプラン)」を購読済みの方は、ご利用のログインID・パスワードでGLOBEデジタル版の全てのコンテンツをお楽しみいただけます。「ログイン」へお進みください。
朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

この記事をすすめる 編集部へのご意見ご感想

  
ソーシャルブックマーク
このエントリーをはてなブックマークに追加
Facabookでのコメント

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

Information | 履歴・総合ガイド・購読のお申込み

Editor's Note | 編集長から

PC版表示 | スマホ版表示