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大学ってなんだ?

[Part3]「教育は職人芸」。普通の教授がスターに変身





スター教授になったルビシャフ。米国のムークでも『微分方程式』を2万人に教えた/photo:Kanari Ryuishi


ネット教育は、先生の教える腕前がそのまま問われる舞台でもある。実力さえあれば、誰でもスターになれる。


ヨーン・ルビシャフ(48)。30代半ばで雑誌編集者から教員に転じた。ドイツ北西部のビーレフェルト専門大学で数学やコンピューター科学を教えてきた。2009年、自ら教室での講義をドイツ語で収録し、動画サイトに投稿した。数学が苦手な学生から「昔の講義を復習したい」と頼まれたことがきっかけだった。


すぐに異変が起きた。どう数えても教室には70人の学生しかいないのに、数カ月間でサイトの登録者が1000人を超えたのだ。


利用者は他のドイツ語圏の国々に拡大した。収録をこつこつと続け、講義動画は2500本。サイト登録者は3万人、再生回数は1200万回を突破。講義とは別に週3回、講演に飛び回る。「先週はアブダビ、来週はスイスです」


なぜここまで人気なのか。ルビシャフに聞くと、大きく笑って答えた。「教育とは、一種の職人芸。私は週18コマを教えている。有名な研究大学の教員の倍の時間を教育に割いているのです」。教えるのがうまいのは、当たり前じゃないですか。そんな笑顔だった。




世界中に受講生

ドイツ版ムークを配信する「アイバーシティー」。20~30歳代の若者が中心だ。中央に立っているのが創設者ハネス・クレッパ。左端が広報担当のジュリア/photo:Kanari Ryuich


ムークは米国で配信が始まったが、その講座の多くは著名大学の教授が教えている。これに異議を唱えるのが、2013年に配信を始めたドイツ版ムークであるアイバーシティーだ。


ベルリン郊外の事務所で、創設者のハネス・クレッパ(29)は「ここで教える教員は大学ブランドに頼ることはできない」と話した。広報担当のジュリアも言う。「ブランド大学の教授は研究で有名なのであり、必ずしも教育で評価されたわけではないでしょ。著名大学で教えていないというだけで意欲的な教授をムークから排除したくないわ」


実際、ベンチャー資本で運営されるアイバーシティーは昨春、英語かドイツ語で教える教員を公募した。ドイツを中心に中国やコロンビアなども含め20カ国から計255の応募があり、10講座を選んだ。制作費2万5000ユーロ(約350万円)を出した。受講生も25万人に達した。著名大学の講座も複数あるが、最多の受講生8万人を集めたのは、学生数3500と小規模なポツダム専門大学の講座だった。


人気ナンバーワンになったヴィンフリード・ゲーリング(左)と助手のクリスティーナ・ショラーラー/photo:Kanari Ryuichi

「見ての通り、とても小さく、別に有名でもない大学なので、今回の受講生の数と多様性には驚いた。まさかトンガやパキスタンからも集まるとは想像すらしていなかった」。この講座『ストーリーテリングの将来』を教えるヴィンフリード・ゲーリング(51)と助手のクリスティーナ・ショラーラー(28)が研究室で顔を見合わせて笑った。物語の構成や新技術を使った伝達方法が学べる講座だ。


毎年160人ほどの学生に教えてきたゲーリングは、数万人規模の学生を前に悩む日々だ。「共通の関心事を持つ学生が世界中から集まり、熱心に議論してきた。終わったからバイバイするなんてあり得ない。講座の後に何をするべきか考えている」


ムークの舞台に上がったことで、田舎町の小さな大学の教員が、世界中の受講生数万人と向かい合っている。ネットでは複数の講座を簡単に比べられる。大学の名前とは関係なく一人ひとりの教える力が問われている。


(金成隆一)

(文中敬称略)

本編2へ続く)




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