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時をはかる

[Part4]時をはかり、変わりゆく時代/和気真也(GLOBE記者)





photo:Kodera Hiroyuki

古い木造の建物が並び、のどかな時が流れる。スイス有数の時計産業の町ル・ロックルは、まるで童話の世界のようだった。この町の高級時計メーカー「クリストフ・クラーレ」の時計師、関口陽介(32)に会った。


「現代は、時間を知りたいだけなら時計に頼る必要はない」。関口から、そんな言葉を聞いた。今回、取材した時計師や時計会社の幹部の多くも、同じようなことを言っていた。


では、なぜ人は高価な機械式時計に魅入られるのだろう?


関口は言う。「機械式時計は手でネジを巻かないと止まってしまう。時間に支配されている現代人の生活のなかで、時計のネジを巻くとき、生活時間をつくっているという実感を得られるのでは」





時間を共有する



教会の時計台や時鐘から、家の掛け時計や置き時計、さらには腕時計へ。時計は時代とともに進化してきた。町に一つから家庭に一つ、そして一人に一つ。時計をもつ単位も変わった。それによって時間を誰が管理するのかが変わり、人々の生活も集団から個へと変化した。


「夕焼小焼で 日が暮れて 山のお寺の 鐘がなる お手々つないで 皆かえろ──」。大正8年(1919年)に発表された「夕焼小焼」の詞(作・中村雨紅)からは、その当時、地域の人たちが一つの時間を共有していたことを読み取ることができる。


それから50年後の昭和44年(69年)、テレビバラエティー「8時だョ!全員集合」が始まった。番組のタイトルは、居間の時計が8時になるとテレビの前に家族が集っていた時代を思い起こさせる。


奇しくも、セイコーがクオーツ式腕時計を世に出したのがこの年だ。正確な腕時計が安く買えるようになり、個人で時間を管理する時代が幕を開ける。


私たちは、そのおかげで幸せになれたのだろうか?


「時の研究家」の織田一朗は「共同体の時間に合わせるしかなかった個人は、自分で時間を管理できるようになって行動の自由が広がった」と前向きにとらえている。一方、山口大学時間学研究所の元所長、辻正二は「共同体の中で時間を感じ取っていた時代に比べ、家族などの共同体がバラバラになりがちだ」と指摘する。確かに、個々の時間で行動する現代は、家族が一つの食卓を囲むことさえ難しくなってきている。


photo:Kodera Hiroyuki

しかし、二人とも「同じ空間は共有できなくなったが、現代人は新しい時間共有の知恵をもち始めている」と言う。若者を中心に広がるツイッターやLINEなどSNSの存在だ。


たとえば、LINEで自分が書き込んだメッセージを相手が読んだとき、画面に「既読」の文字が現れる。それを見たとき私たちは、画面の向こうの相手と同じ時間を共有していると感じる。時間の管理と他人とのコミュニケーションを担う機器が、時計台や時鐘のころとは違う共同体を形づくっている。


新しいテクノロジーが広がることで、私たちと時間の関係も進化し続けている。





取材にあたった記者


和気真也(わけ・しんや)

1979年生まれ。経済部、デジタル編集部などをへてGLOBE記者。腕時計はしないけど、1000万円の時計にあこがれた。


田中郁也(たなか・いくや)

1958年生まれ。経済部、GLOBE編集部などをへて編集委員。腕時計は北欧風の米国製。でも、クオーツは日本製だ。


静物写真


小寺浩之(こでら・ひろゆき)

1965年生まれ。雑誌編集者をへて静物写真の世界へ。日本写真家協会会員。


砂時計

廣田硝子株式会社「スナ式トケイ」



(今回の「編集長から」は「『永遠』を見る」です)

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