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時をはかる

[Part1]社会的時差ボケを診断します





人間の体には、約24時間周期で睡眠や活動などを繰り返すよう、体のリズムを整える体内時計が備わっている。全身の細胞にある「時計遺伝子」が脳と連携することで、体温やホルモン分泌などを調節している。


たとえば、血圧は日の出とともに上がり始め、目覚めた後の活動に備える。交感神経は午後3時から夕方にかけて最も活発になる。そして就寝時間の1~2時間前、眠りのホルモン(メラトニン)が分泌されて睡眠の準備を始める。


体内時計のリズムは、人によって微妙に異なっている。周期が24時間より長い「夜型」の人もいれば、逆に24時間より短い「朝型」の人もいる。


こうした体内時計の個人差は、従来、時間がわからないようにした部屋に対象者を隔離し、時間をかけて調べるしかなかった。ところが最近、手軽に調べる手法が相次いで開発されている。「社会的時差ボケを診断するのが目的だ」と、国立精神・神経医療研究センターの三島和夫は言う。



体内時計をリセットする


「社会的時差ボケ」とは、社会のなかで求められる生活時間と体内時計がずれてしまい、体調不良や覚醒障害、睡眠障害になることだ。


厚生労働省の調査によると、なんらかの形でシフト勤務につく人は就労者の3割近くにのぼる。就寝時間も遅くなる傾向が続く。夜中にコンビニに行ったり、パソコン画面を見つめたりすると、体内時計がじょじょにおかしくなる。


通常は、朝の強い光をあびることで体内時計のずれがリセットされる。「しかし、夜勤シフトが続いたりすると体内時計がどんどんずれてしまい、体の不調につながる」と三島は言う。


体内時計のずれを直すには、光照射器で強い光を浴びたり、睡眠ホルモンを投与したりする治療法がある。ただ、これまでは体内時計のずれの度合いや、ずれやすさなどの診断が難しかったため、手探りで治療するしかなかった。体内時計の個人差がわかるようになれば、その人にあった治療をすることができる。


三島のチームは、ごく小さな皮膚片(2×5mm)をもとに体内時計の個人差を診断する方法を開発した。皮膚の細胞内にある時計遺伝子を特殊な操作で光らせ、その発光リズムをもとに体内時計のずれを調べる。



生活習慣病の治療に


ほかにも、理化学研究所の上田泰己(ひろき)たちは、血液を調べて体内時計のずれを測定する方法をつくった。山口大学教授の明石真も、毛根細胞をもとに診断する手法を開発している。


こうした診断法は、時計遺伝子の研究が加速しているおかげで実現できた。


人間の時計遺伝子が初めて特定されたのは1997年。それから16年、体内時計にかかわる約20の遺伝子が見つかっており、体内時計の詳しいメカニズムがわかってきた。


全身の細胞にある時計遺伝子が「子時計」として自律的にリズムを刻むとともに、目の奥の視交叉上核(しこうさじょうかく)にある「親時計」が子時計を統合して全体の指揮をとっているという。海外旅行の際に時差ボケになるのは、子時計の時間調整が親時計よりも時間がかかるためだと考えられている。


「高血圧をはじめ、生活習慣病の多くが体内時計の不調によることが、細胞レベルの分析で明らかになってきた」。時計遺伝子の一つを最初に特定した研究チームのメンバーだった京都大学教授の岡村均は言う。「これからは、病気の予防や治療に向けた応用研究が広がっていくはずだ」


(田中郁也)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


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