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菌のちから

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[Part1]土でケータイを充電。微生物電池がアフリカを変える



電気を起こすシュワネラ菌。これ以外にも土の中には多くの「発電菌」が住んでいる(提供:渡辺一哉・東京薬科大学教授)


冬枯れの景色が広がる1月初めのボストン郊外。待ち合わせ場所の病院に、アビバ・アイデンが現れた。首に聴診器。白衣のポケットに両手を突っ込み、笑顔を浮かべている。ハーバード大学医学部の博士課程に在籍し、将来は臨床医をめざしている米国人の女性だ。


アビバ・アイデンさん/photo:Tsuru Etsushi

彼女は2年ほど前、医療とはまったく関係のない話題でメディアに取り上げられた。「土にすんでいる微生物の力で電気を起こし、携帯電話を充電する」というプロジェクトをぶち上げたのだ。これが革新的なアイデアだと高く評価され、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツと妻メリンダの財団から10万ドル(約900万円)の支援を受けた。


これまで、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)の工学部の学生ら、のべ15人ほどが開発にかかわってきた。約500台の電池を東アフリカ・ウガンダに持ちこみ、電力のインフラに乏しい農村の住民たちに使ってもらう実証実験を進めている。


「道路がろくにないところもある。ロバや馬の背に実験の機材をくくりつけて運んだのよ」とアイデンは言う。


 

電子を放出する細菌

   


木箱に土を入れて作った微生物電池。アビバ・アイデンらが製作した初期のもので、研究室で発電実験を/photo:Tsuru Etsushi

なぜ、土で電気を起こせるのか。


アイデンに助言してきたハーバード大学准教授のピーター・ガーギスは「スプーン1杯の土には数十億の細菌などがいて、有機物を分解する際に電子を放出するものもいる。その電子を電極に取り込んで電気を起こす」と説明する。


この仕組みは1世紀も前から知られてはいたが、細菌がつくる電気は微弱すぎて使い道がなかった。効率よく電子をとりこめる技術も足りなかった。


ところが、技術の進歩で道がひらけてきた。その一つがLEDだ、とガーギスは言う。「小さなLEDライトの消費電力は従来の白熱電球の1000分の1以下。微生物の力でテレビはつけられないが、LEDライトはともせるようになった」


5年ほど前、アイデンはハーバードの工学部に在籍し、LED技術などを研究していた。LEDの新たな使い道を探っている中で浮かび上がってきたのがアフリカだった。アフリカ大陸では総人口の約5割が電気なしで暮らしていると言われ、中でも、年収1000ドル未満の低所得層も少なくないサハラ砂漠より南の農村地帯は慢性的に電力が足りない。


「電気のない暮らしにサヨナラさせてあげたい」。そんな思いを共有する学生らが集まり、LEDライトをともす電池の開発を始めた。ウガンダのほか、タンザニアやナミビアでも実験を重ねた。


研究チームにはアフリカ出身の留学生が多い。いまはケニアで働いているステファン・ルウェンドも、その一人だ。タンザニアで生まれ育ったルウェンドは「子どものころ自宅で電気が自由に使えず、有害な黒煙を出す灯油ランプをともして宿題をしていた」という。MITのデビッド・センゲイ(シエラレオネ出身)は、姉が出産する際に病院が停電し、姉の命が危険にさらされた経験がある。


「アフリカ出身の学生たちにとって、故郷でのつらい経験が電池を開発する強烈なモチベーションになってきた」。アイデンは、そう説明する。



1ドルでつくる 


 

photo:Kodera Hiroyuki

土を使うアイデアは最初からあったわけではない。太陽電池や風車など、さまざまな案が浮かんでは消えた。小さな集落ごとに昼夜を問わず安く電気を供給するのが難しいからだ。たどりついたのが土の電池だった。


動物の死骸や家畜のふんなどの有機物が豊富で微生物の多い土は、農村でも簡単に手に入る。


電極や容器などを入手しやすい素材にしたり、構造を単純にして組み立てやすくしたり。初期の電池は大きなバケツ形だったが、第5世代のいまは手のひらサイズになった。「普及させるには、現地の人々が組み立てられるものでないといけない」とガーギスは言う。


携帯の充電という用途は、現地の実情を見て後から浮かんだアイデアだ。


学生たちは、電気のない集落で多くの村人が携帯を手にしているのに驚いた。サハラ以南の普及率は56%。村人たちは充電設備のある町まで数時間かけて歩いていた。「集落で充電できれば携帯の使い勝手がよくなり、携帯を使った遠隔医療も可能になるかもしれない」。医師をめざすアイデンらしい発想だ。


ただ、もっと安定して電気を起こせないといけないし、携帯向けにはLEDライトより大きな電力が必要だ。コストの削減も欠かせない。「いまは1個あたりの原価が10ドルを超えているが、そのうちに1ドルまで下げてみせる」とアイデン。5月には、ゲイツの財団による追加支援に応募するつもりだ。


(都留悦史)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)


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