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お茶、再発見

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[Part1]原点回帰、緑茶・ウーロン茶に注目/英国【動画あり】





「ティースミス」で読書をしながら茶を味わう男性/photo:Aoyama Naoatsu

早足で人びとが行き交う年末のロンドン。金融街シティーのはずれに、マツ材のカウンターに16脚のいすを並べた、バーのようなたたずまいの店がある。昼下がり、若い女性客がノートパソコンを広げ、右手でマウスを動かしながら、左手で丸い湯飲みを口に運んでいた。

「ティースミス」の店主ジョン・ケネディさん/photo:Aoyama Naoatsu

緑茶とウーロン茶が売りの「ティースミス」だ。建設コンサルティング会社に勤めるスティーブン・リントン(62)は1年ほど前から常連で、この日は台湾のウーロン茶「凍頂」を頼んだ。「最初は緑茶に興味を持ったが、最近はウーロン茶が好き。これもクリーミーでおいしい」


英国で「ティー(茶)」といえば紅茶。中でもふつうは、味を濃く出し、牛乳を入れた紅茶を指す。「お茶は生活にとけこんでいて、存在すら意識しない英国文化の『壁紙』のようなものになっていた」と店主ジョン・ケネディ(48)は話す。だが近年、その固定観念が揺らぎ、緑茶をはじめとした多様な茶の世界に目を向ける人が増え始めた。


ティースミスの最近のメニューには、約20種類のウーロン茶を含め、計40種類ほどの銘柄が並ぶ。ほとんどが中国、日本、台湾の茶だ。中国緑茶「龍井(ロンジン)」は1杯3.5ポンド(約490円)、日本の茎茶「雁が音(かりがね)」は1杯5ポンド(700円)などと割高だが、2006年に開店してから、客足は伸び続けてきたとケネディはいう。


紅茶「冬の時代」



変化のきっかけは、1990年代まで長く続いた紅茶の「冬の時代」だった。


五つ星ホテル「ランガム」のティーラウンジでアフタヌーンティー/photo:Aoyama Naoatsu

97年に渡英し、現地で紅茶スクールを主宰してきたスチュワード麻子は「英国人にとっての紅茶は、日本人にとってのごはんに近い」と話す。紅茶は古くさい飲み物というイメージが定着していた。


英政府の統計によると75年から2000年にかけ、1人あたりの茶の消費量はほぼ半減した。コーヒーも微減で、一人勝ちだったのがコーラなどのソフトドリンクだ。ファストフードの普及などに後押しされて、5倍以上に伸びた。


そこで2000年代、英国紅茶協会の責任者ウィリアム・ゴーマン(64)は、紅茶をファッションとして売り込むイメージ戦略に乗り出した。ゴーマンは酒類業界を経て、00年に紅茶協会に転じた。「紅茶業界はただ伝統を守ろうとするだけ。コーヒーが、現代的でセクシーなイメージを打ち出していたのに比べ、独創性に欠けていた」と振り返る。


02年、紅茶好きの人気モデル、ケイト・モスを使い「おしゃれな若い女性が飲む」というイメージを前面に出すPR事業を展開。茶の効能についての研究データを集めて「茶は健康にいい」という印象を広げることにも努めた。

業界各社は、牛乳と砂糖を入れて飲むのに使う定番の紅茶ティーバッグ以外の商品展開に力を入れた。例えばトワイニング社は、ベルガモットの香りの「アールグレイ」に、バラやラベンダーなど花の香りを加えた商品を出した。「牛乳を入れずに飲むのがおすすめ」とうたい、容器にはドレス姿の女性をあしらった。


紅茶の定番離れに合わせ、大きく伸びたのが緑茶のティーバッグだった。英市場調査会社ミンテルによると、健康にいいというイメージが受け、11年の売上高は約2200万ポンド(31億円)と2年前より83%も伸びた。ミンテルの上級アナリスト、アレックス・ベケット(35)は「英国の茶の歴史が振り出しに戻り、再び『東』を向きつつあるみたいだ」。17世紀、アジアから茶が伝わってしばらくの間、英国人も緑茶を飲んでいた。茶は病気を治す神秘的な飲み物として珍重され、豊かな上流階級に属していることを示すファッションとしての意味合いも強かった。


トワイニング家10代目のスティーブン・トワイニングさん/photo:Aoyama Naoatsu

緑茶ティーバッグの茶の売上高全体に占める割合は3%と、9割近くを占める紅茶にはまだ遠く及ばない。だが、トワイニング社で広報戦略を担うスティーブン・トワイニング(49)は「緑茶人気が勇気をくれた。お茶にはいろいろな楽しみ方があっていい、と気づかせてくれた」。300年以上前の創業者から数えて10代目。「お茶を飲むことで、新しい体験が得られるのだと示し続けたい」と話す。





伝統のアフタヌーン・ティーも様変わりした。「90年代は閑散としていた」とスチュワード麻子が言うホテルのティーラウンジの人気が再燃している。




ロンドンを代表する五つ星ホテル「ランガム」のティーラウンジを訪ねると、背広を着たビジネスマンらが情報交換にいそしんでいた。メニューには紅茶のほか「HOJICHA」「TAIWAN DONG DING(凍頂)」といった銘柄も並ぶ。店の責任者は「数年前までほとんど女性だったのが、今は商談で使う男性客も増えた」と話す。


(青山直篤)

(文中敬称略)

(次ページへ続く)

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