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[Part1]現地採用に活路。挑む若者たち


年の瀬も押し迫る昨年12月、ジャカルタの日系工具メーカーで働く神農亮(24)は、7月の入社以来初の大型受注をとる糸口をつかんだ。取引のなかった地元の大手企業への飛び込み営業が実を結び、試しに製品を使ってもらうことになったのだ。普段は、日本語、英語、インドネシア語を駆使して1本数千円の工具を売る地道な仕事だ。「アポなしで飛び込んでみてよかった。少し自信がついたかな」。社員30人ほどの事務所に毎朝7時半に出社して仕事の段取りをし、8時半から営業へ。夕方帰社後も夜9時ごろまで働く。


1年前は、東京のサービス系ベンチャー企業で店舗運営を任されていた。朝6時半に家を出て深夜1時に帰宅する日々。仕事が集中した年末は連日終電を逃してネットカフェに泊まった。年末商戦を乗り切ったとき、「もうこの会社で得るものはない」と感じ、退職した。



もともと学生の頃から海外志向はあった。まずは新人の裁量が大きいベンチャーで経験を積み、転職先で駐在員をめざす道もあったが、「赴任先も時期も選べない。会社が決める人事を待つより、自分で海外に出て知識や経験を身につけたほうが早い」と海外法人の直接雇用を模索。海外就職を支援する会社に登録し、ジャカルタで専門商社など6社の面接を受けて、5社の内定を得た。


一般にインドネシアやマレーシアの現地採用の給与は、本社派遣の駐在員の半分程度だ。駐在員はその上に海外勤務手当や、住宅や車も用意される。現地採用の場合、そうした福利厚生はおろか、年金や雇用保険もないことが多い。人材会社によると、企業が負担する現地採用の人件費は、日本から派遣する駐在員の3分の1程度だという。


それなのに「即戦力」を求められる。新卒でも社員研修なしで、いきなり数十人の現地職員を束ねる管理職になることも。現地の同僚から給料の高さをねたまれたり、日本人相手の接待営業ばかりで失望して帰国したりと、現地採用なりの苦労も少なくない。

神農亮さん(左)と戸井田哲也さん/photo:Goto Eri

そうしたリスクも、神農は覚悟してきた。営業先で若い日本人駐在員から見下されているように感じる時は、少し嫌な気分になるが、「コスト減らしのコマであれ、日本では得られない経験ができる」。給料は2000ドル(約16万円)で、日本にいたときと手取り額は変わらず、自由な時間は増えた。昨年末の総選挙はツイッターで知ったが、関心もわかなかった。「日本で政治が変わることに期待するより、希望がある国に自ら移るほうが現実的」だと話す。会社の業績も伸びており、「外国人のマネジメントや言語など、吸収できることはぜんぶ身につけたい」。


仲間の一人、戸井田哲也(29)も昨年9月、日系の精密機器メーカーに入社した現地採用組だ。2浪して大学に入り、25歳で卒業。最初に内定が出た都内の中堅冷凍食品メーカーに就職し、海外勤務を希望していた。だが、一昨年の震災後、節電の影響で売り上げが激減。「このままではいつ海外に出られるかわからない」とネットで情報収集するうちに、現地採用という働き方を知り、1年ほど準備に費やして、渡ってきた。いま、働いていて景気の良さを実感する。営業活動をする前から、顧客から次々と見積もりの依頼が舞い込む。「日本の高度成長のような勢いを肌で感じられるのが楽しい」

今慈子さん/photo:Goto Eri

日系企業が多く進出するマレーシアでも、現地採用が増えている。北海道出身の今慈子(27)は昨年6月、クアラルンプールにある大手電機メーカーに就職した。北海道大を出て東京の不動産管理会社に就職したが、海外で働く夢を忘れられず、3年で退社。就職活動を始めてすぐにいまの会社で内定をもらった。現在の月給は6000リンギ(約17万円)。物価は日本の半分程度で、東京にいたころより貯金もしているし、週末に格安航空券で旅行を楽しむ余裕もある。


彼女をアジアに引き寄せたのは、大学で出会った留学生たちだ。つねに上をめざす向上心に刺激を受けた。自分が外国人としてアジアにいたら、彼らと同じように頑張れるかもしれない。「やっぱり外に出よう」。自分にとって、マレーシアで働くことは通常の転職と同じようなものだ。将来は別の国で働くことも視野に入れているという。


(後藤絵里)


(文中敬称略)

(次ページへ続く)


日本からアジアへ

日本からアジアへ。海外就職に活路を求める若者や子どもの教育のために一家で海外に移住する家族の姿を紹介します。(撮影:後藤絵里、機材提供:BS朝日「いま世界は」)


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