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異分野との出会い

[Part2] 書×パフォーマンス――「自分のこころを映すもの」大野彩子(高校3年生・書道部員)

 

筆を大きく振りかぶり、振り下ろす。自分たちも跳びはねる──。桜色のはかま姿の高校生が大筆を手に、縦5メートル、横10メートル近い紙のうえを縦横無尽に駆け回っていた。

 

「字と字のあいだの余白も、どうきれいに見せるか意識しています」と、松山女子高3年生の栗原淳子  photo : Toyomane Yoshinori

書に音楽やダンスを取り入れ、巨大な紙に字をしたためる「書道パフォーマンス」。いま最も勢いがあると言われる埼玉県立松山女子高校の書道部が、学校近くの大型ショッピングモールで披露したデモンストレーションを見た。

 

書道部の使う約30曲のうち、一番人気は大塚愛の「さくらんぼ」。イントロが鳴ると、部員30人のうちの1人が元気よく「いきまーす」。紙のうえに駆け上がり最初のひと文字。さらに複数の部員が入れ代わり立ち代わり、歌詞を分担して書いていく。筆先からは、流麗な仮名文字、漢字が繰り出される。黒い墨だけでなく、青やピンクなどカラフルな専用の水性ペンキも使う。

 

顧問の石原裕子によると、12年前に赴任したころの部員は数人。それが、若者の書道を題材にしたマンガ「とめはねっ!鈴里高校書道部」が人気になった数年前から、耳目を集め始めた。

 

書き終えた作品は、立てかけて観衆に見せる  photo : Toyomane Yoshinori

紙とすずりに向かうイメージとは違い、練習は体育会系だ。朝の練習が約1時間、夕方は午後4時から7時すぎまで。入部したての1年生が筋肉痛になるのは日常茶飯事。パフォーマンスの主要メンバーは、部内オーディションで選抜される。

 

この松山女子高は本来の書道でも強豪校。「書の甲子園」といわれる国際高校生選抜書展で昨年、「団体の部」で2度目の全国優勝を決めた。3年生で副部長の大野彩子(18)は「パフォーマンスでは、字の美しさだけでなく、書いているところを『いかに見せるか』も考えています」。

 

話だけでは分からないと、記者(稲垣)も挑戦してみた。大筆の丈は130センチ近いが、プラスチック製で意外に重くはない。だが、模造紙を何枚も貼り合わせた紙に 字を書くなど初めて。偏やつくりのバランスをどう取ればいいか戸惑う。春という字を書き上げたが、「線にもっと強弱があればいいですね」と二回りも年下の女子高生にダメだしされてしまった。大人数で音楽に合わせて字を書き、全体が調和した作品に仕上げるには、相当なチームワークが必要だろう。

 

書道パフォーマンスの発案者とされるのが、福岡県豊前市にある県立青豊(旧築上中部)高校の書道部顧問、清原憲治(64)だ。

 

きっかけは18年前。同校も「書の甲子園」で過去5回の全国優勝を誇る。祝賀会を開いた地元のホテルで、人前で大きな紙に書いてみせたのが最初だった。5年後、テレビ番組に出た書道部員が男性ヒップホップダンスボーカルユニットDA PUMPの曲に乗って大きな紙に書いて見せたことで、さらに多くの人に知れ渡った。

 

「初めは『あれが書道?』と言われましたよ。しかし、書はかくあるべし、という固定概念から外れてこそ、いい字が書ける。プロが見てうなるような字を書くことも忘れてはいません」と清原。

 

書道パフォーマンスは今、全国に広がっている。半紙の出荷額日本一を誇る愛媛県四国中央市は08年から毎夏、「書道パフォーマンス甲子園」を市の体育館などで開催。市内にある県立三島高校で書道部顧問だった服部一啓(現・福岡教育大准教授)が「高校生ならいろんなことに挑戦できるはず」と提案した。第1回大会に参加したのは、三島高を含む3校、観客も約300人だったが、昨年7月の第4回大会には全国から15校が出場、観客も3500人に膨れ上がった。

 

三島高書道部の現顧問、阿部秀信(34)は、書は絵画や美術に近いと思われがちだが、体全体を使い、呼吸やリズムが重要な点で、音楽に近いという。伝統的な書の枠の外にあると見られかねないパフォーマンス。「実は書の本質と深くかかわることなのです」

 

(稲垣直人)

 

(文中敬称略)

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