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[Webオリジナル] えほんをひらけば

[第1回] カリスマ編集者インタビュー/ 「本との素晴らしい出会いを送りたい」

 

すぐれた絵本は国境を越える――。香港に拠点を置く絵本の専門出版社「minedition」代表のミヒャエル・ノイゲバウアー(Michael Neugebauer)さんの仕事ぶりをみていると、そんな言葉を思い浮かべる。イタリア・ボローニャで開かれる国際絵本原画展などで有望な絵本作家の「卵」たちを見いだし、世界各国での出版につなげてきたカリスマ編集者だ。国境を越える絵本づくりの秘けつを聞いた。(聞き手 後藤絵里)

 

ミヒャエル・ノイゲバウアー = photo : Kotoyori Tatsuo

――どうやって世界中で作家を発掘するのですか。
毎年、イタリア・ボローニャとドイツ・フランクフルトの2大ブックフェアには欠かさず行きます。出版社まわりも欠かせません。

 

世界中の出版社に知り合いがいて、つねに世界を飛び回っています。3つのスーツケースにそれぞれ上限いっぱいの33キロまで商品サンプルを詰め込んで飛び回るのだから大変です。

 

日本にも、以前はほぼ毎月、いまも2カ月に一度は打ち合わせや情報収集のために来ています。


国籍で作家を選ぶことはしません。欧米以外にもイランやアルゼンチン、中国、韓国などあらゆる国の作家(画家)の作品を手がけています。

 

最近は韓国の絵本熱がすさまじく、わが社が手がける作品のすべてが韓国で出版されています。韓国の出版社はブックフェアに来ると出版前の本も含めてすべての版権をとっていきます。日本人作家のいまいあやのさんは韓国でも非常な人気で、キャラクターグッズも出ているんですよ。

 

――いまいさんのように、あなたの出版社から初めての作品を出した日本人作家も多いですね。
そうですね。7月に日本で初出版になる「のりもの つみき」(講談社)を出した米津祐介さん、「くつやのねこ」(BL出版)のいまいさん、「ぼくはカメレオン」(グランまま)のたしろちさとさんなどは、本国より先に私の会社から作品を世に送り出しました。

 

どこの国でも、出版社は新人作家の作品を出版することに慎重です。今や売れっ子のいまいさんも、日本で出版を実現するまでには長い時間がかかりました。どこの国でも新人作家の悩みは同じです。だからこそボローニャ(国際絵本原画展)にやってくるのです。世界中の編集者たちが有望な作家をさがしていますからね。


ただ、そうした状況はインターネットの出現でずいぶん変わってきました。今は新人でも素晴らしいウエブサイトを持っていたり、作品PDFファイルで送ったりできます。ネットを介して、作家は世界に自分の存在を知らせることができるのです。

 

――国によって売れる作品も違うのですか。
欧米と日本ではだいぶ違います。日本の読者が好む絵が欧州でも受け入れられるとは限らないし、その逆もある。最も大きな違いは物語の内容です。欧米では物語のメッセージが直接的で、テーマもはっきりしている。子どもたちに教えたいこと、伝えたい価値などを題材にすることが多い。

 

日本の場合はもっとマイルドで間接的です。ただ、主人公に動物を使うことが多いのは共通しています。読み手の子どもたちが簡単に自分を重ねられるからです。人間が主人公だと、国によって装いや肌の色などが違ってきますから。

 

――作品をヒットさせる「こつ」はありますか。
まず第一に、絵がいいこと。そしてすぐれた物語があること。へたくそな絵でも成功する作品がありますが、それは物語が優れているから。逆に、どれだけ絵が素晴らしくても、物語が良くないと大ヒットにはなりません。アートの世界で売れても、絵本市場の主な部分を占める幼稚園や保育園などで売れないからです。


あとは運とタイミングです。私たちは昨秋、広島の原爆をテーマにした「Sadako’s Crane(貞子の折り鶴)」の出版を計画し、3月に欧州で出版しました。そこに東日本大震災が起き、欧州で予想以上に売れています。大人たちが絵本を通じて子どもたちに核の恐ろしさを伝えようとしているようです。一方で、マーケティングを重ねても販売が伸びず、その理由さえ分析できないこともあります。

 

――なぜ香港に拠点を置いているのですか?
生産拠点としても輸送のハブとしても、香港は最適地なのです。中国南部にある世界最大の印刷工場を持つ企業に製本を委託し、香港の港から欧米や豪州、アジアに製品を送り出します。私自身が毎週、工場に出向いて製作現場に立ち会っています。最近は中国も人件費の上昇で製造コストは決して安くないのですが、それでも欧州や日本と比べればまだ安いですね。アジア太平洋は非常に有望な絵本市場であり、私たちの未来がかかっていると思っています。

 

――絵本にはどんなパワーがあると思いますか。
良い絵本は実にさまざまな力があります。ときに人生を変えることだってある。だれもがみな、子どものとき、とっておきの絵本に巡り会っているはずです。たとえ覚えていなくても、記憶の底にそれは息づいているのです。


幼稚園や保育園で、落ち込んだり、恥ずかしがったりしている子どもたちが、絵本を見せたとたんに「僕のお話だ!」と気分を変えることがあると聞いています。主人公に自分を重ね、自分に向けたメッセージだと受け取るんですね。

 

――編集者の仕事を通して何をめざしていますか。
良質の絵本を世に送り出すことで、質の高い作品とは何か、美しい絵や物語とはどんなものかを伝えたい。最初の本との出会いが素晴らしいものであれば、その人は生涯を通じて読書の習慣を続ける可能性が高い。逆に最初に巡り会う本がいま一つだと、彼らはそれ以降、本に見向きもしなくなるかもしれないのです。


でも、私は本を出版するとき、その向こうにいる子どもたちを思い描くことはまずなくて、いつも純粋に自分のためにやっています(笑)。絵本をデザインし、作家と一緒に作り上げることを、心の底から楽しんでいます。もし私が作った本を子どもたちが好きになってくれたら、それは宝くじにあたったようにうれしいことで、この仕事をしてきてもっとも報われたと思う瞬間なのです。

 

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