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日中韓、それぞれの漢方

[Part1] 中医学を「国際規格に」

 

医学を国際規格に――中国はここ数年、こんな動きを強めている。

舞台は国際標準化機構(ISO)。国境を超えた製品・サービスの流通を促すために、共通規格づくりを進める組織だ。160カ国以上が加わり、様々な産業分野で1万8000余の国際規格を定める。

中国は、中医学の用語や治療法、免許、生薬の製造方法などをISO規格にしたい、と訴えている。西洋医学では注射針など医療機器の品質管理にISO規格はあるが、医師免許や薬そのものにはない。

 

小寺浩之氏撮影

中国政府は2009年4月に、中医薬の国際市場を開拓する方針を発表。生薬を握る強みを、知的財産分野での優位につなげる、と宣言した。

 

09年9月にISOは、中国の提案を受けて中医学の標準化を検討する専門委員会を新設。中国側の幹部は「国際標準の世界で『常任理事国』入りを果たした気分だ」と喜んだ。

 

日本や韓国は「各国の医療制度に踏み込む内容だ」と警戒するが、経済協力などで中国と関係の深いアフリカ諸国などは中医学の標準化を支持しているという。

 

「標準化」の狙いは何なのか。中国側のキーマンの一人、世界中医薬学会連合会副主席の李振吉は「中医はすでに160カ国に広がっている。標準化できれば各国で規範になり、中医薬の安全性も保てる。国益よりも国際貢献の意味合いが大きい」と主張する。

 

確かに、欧米の一部では中国から輸入された生薬による健康被害が問題になっている。

品質や安全性の試験が不十分だったり、効き目がない偽物が出回ったり。中医師の技術もバラバラだ。欧州連合(EU)は4月末から生薬を配合した薬用植物製品の販売を承認制にした。

 

ただ、産業界では「国際標準を制するものが市場を制する」ともいわれる。世界貿易機関(WTO)の協定は、加盟国が規格をつくるときは「国際標準を基礎とする」と定める。政府調達でも国際標準に合う製品の採用が基本だ。

ISOの会議にも出席している東北大大学院講師の関隆志は「中国は中医薬の品質や安全性を認証するビジネスで主導権をとりたいのだろう」と見る。


小寺浩之氏撮影

中国の狙いは国際ビジネスだけではないとの見方もある。

実は、中国の医学界には中医への厳しい評価が根強くあった。

06年には地方大学の研究者らが「科学的な根拠に乏しく、安全性も保証されていない中医・中薬研究は廃止すべきだ」とネット上で主張し、一時は中医廃止の署名運動まで起きた。

 

農村部では大学を出ていない中医も多かったといわれ、技術や知識への不信感もくすぶる。中国中医科学院中薬研究所副所長の辺宝林は「患者の疑問に答えるためにも、中医学は科学的な解釈を必要とする時代を迎えている」と話す。

 

折しも中国では「看病難、看病貴(医療費が高すぎて診療を受けられない)」が問題になっている。

政府は医療保険を農村部にも本格的に広げ始めると同時に、医療費引き下げのため、保険を適用する薬品に西洋薬より割安の中医薬を増やし、西洋医が少ない農村部に、中医の診療所設置を義務づけるといった手も打っている。

 

中国は「国際標準」を、国内にいる中医の質の向上や患者の信頼獲得にも役立てようとしている。ある日本の漢方関係者はそう分析している。

 

(都留悦史)


(文中敬称略)

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