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日中韓、それぞれの漢方

[Part2] 「体調改善に」 震災の現場で処方

 

「夜になるとせきが出てよく眠れない。鼻水も出たり止まったりなんです」

東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県石巻市。 避難所の一つ、市立青葉中学校2階の理科室で、中年の男性がゆっくり体を起こしながら、巡回診療に来た医師に訴えた。震災から1カ月あまりたった4月24日のことだ。男性は45歳。家を津波で根こそぎ押し流され、ここで避難生活を送っているという。寝床は段ボールと毛布を敷いただけで、隣との仕切りは学校の机だ。

 

避難男性に漢方薬を処方する高山医師。「西洋薬との併用も可能です」
photo : Tsuru Etsushi

仙台から巡回に来た内科医の高山真(40)は男性の脈を測り、舌の状態をみたうえで、漢方薬を二種、処方した。空せきに効くとされる麦門冬湯(ばくもんどうとう)と、鼻風邪に使う小青竜湯(しょうせいりゅうとう)だ。

高山は東北大学病院の漢方内科医。留学先のドイツで震災を知り、急きょ帰国した。「西洋薬では症状が改善しない患者に、漢方薬を薦めている」。抗アレルギー剤だと眠気で車の運転に注意がいるが、漢方薬ならその心配もない。

 

避難所では、津波で運ばれた泥やがれきの粉じんの影響などで、せきや鼻水の症状を訴える人が増えているという。高山はこの日、便秘や食欲不振を訴える被災者も含め約10人に漢方薬を処方した。「漢方診療の特徴である時間をかけた問診が患者の癒やしにもなる」と話す。

 

漢方薬を処方する医師は被災地では、まだ少ない。だが、早稲田大人間科学学術院准教授で内科医の辻内琢也は「漢方は、被災地で風邪や感染症が広がり始め、ストレスが出始めたときに効き目を表す」と話す。1995年の阪神・淡路大震災から3週間後、辻内は神戸市内の避難所に入り、約1週間で計80人を診察。24人に漢方薬を処方した。

 

地震で家が全壊した患者には不眠や抑うつ気分が起きやすく、近親者を亡くした人には、倦怠感(けんたいかん)を訴える傾向があったという。「不眠やだるさに加え、食欲不振、頭痛、動悸(どうき)、胸痛などの症状を訴えた患者に対しても、漢方薬は効き目があった」と振り返る。

 

明治以降、日本で西洋医学が普及するなかで、漢方薬の地位は相対的に低下し、「効き目」についての見方も分かれてきた。だが、近年は症状によって漢方薬を処方する医師も増えつつある。国内の漢方薬市場の規模は約1200億円。「2015年には2000億円を超える」(野村総合研究所)との予測もある。ただそれも、原料の確保が前提条件になる。

 

(都留悦史)

 

(文中敬称略)

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