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日本人の起源 On the origin of the Japanese

[Part1] 取材班のDNAを解析。多彩な「祖先の記憶」

 

DNAを手がかりに、「祖先」の足跡が明らかになりつつある──。そう聞いて、ふと思った。私(後藤)のDNAには、どんなルーツが刻まれているのだろう?


さっそく、取材班の3人(琴寄辰男、村山知博、豊間根功智)とともにDNAを調べることにした。
樹脂製の細い棒を口に入れ、ほおの内側を何回かこする。棒の先端の小さなブラシに、透き通った粘膜組織がからみつく。しっかり封をして、国立科学博物館の新宿分館に持ち込んだ。


篠田謙一は4人分の「棒」を受け取ると、それぞれのブラシの先端を透明な液体に入れてかき回した。そこにさまざまな試薬を加えると、やがて白っぽい物体が現れた。さらにかき混ぜたり温めたりを繰り返した後、篠田は1日がかりでミトコンドリアDNA(メモ2 参照)を解析したという。


数日後、「これがあなたの解析結果ですよ」と篠田が差し出した紙には4種類のアルファベット(A、T、G、C)が横一列にずらっと並んでいた。

ミトコンドリアDNAをつくっている4種類の塩基だ。並び方には微妙な個人差があって、その特徴をもとに数十種類のグループにわけることができる。種類は多いが、血液型のようなものだ。


「ほら、16257番目の塩基がA、16259番目がTでしょ。だから、後藤さんは『N9a』というグループなんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「N9a」は、中東からヒマラヤの北を通って東アジアに広がったとみられるグループだという。日本人では4.6%と多くはない。中国南部や台湾の先住民に多く、「こうした地域で緩やかに広がり、やがて日本に入ってきたのだろう」と篠田は言う。


琴寄と担当デスクの村山は、日本人の最大派閥「D4」だ。他グループが日本人の1%未満~10%程度なのに対し、「D4」は3割強を占める。

 

中央アジアから東アジアまで広く分布し、朝鮮半島や中国東北部でも3~4割。琴寄がクロアチアで専門家に取材した際、自らが「D4」だと告げると、「それは中国系だね」と即答された。それほど東アジアでは大きなグループだ。


「D4」は、3万5000年以上前、東南アジアをへて東アジアにやってきた人々の中で生まれたらしい。マレーシアのニア洞窟にいた人々は、このグループの祖先なのだろうか。


おもしろいことに、色白で北方系の琴寄と、南方系でソース顔の村山はあまり似ていない。顔や体形は、さまざまな遺伝子が複雑に絡み合って決まる。ミトコンドリアDNAの型は、姿形とは直接的には関係がないのだ。


カメラマンの豊間根は「B4a」というグループだった。日本人では1.6%しかいないが、東南アジアから南太平洋に広く分布している。沖縄の遺跡の古い人骨でも確認され、「多くは南から島づたいに日本列島まで北上してきたのでは」と篠田はみている。

なるほど、大柄な豊間根のルーツは海洋民族か。年中、アロハシャツを着ていることとは関係ないだろうけど。


たった4人のミトコンドリアDNAにも多様な「祖先の記憶」が刻まれていることに驚かされた。一口に日本人といっても、さまざまなルーツを背負っていることがわかる。


最近、より多くの情報をもつ細胞核のDNA配列を手がかりに、日本人のルーツを探る研究も進んでいる。


理化学研究所のチームは7000人を超える日本人を対象に、1人につき14万カ所のDNA配列の微妙な個人差(SNP=スニップ)を調べた。近畿以西の人は中国北部の人に似ている傾向があったが、関東や東北など東や北にいくほど中国の人たちとは遠くなっていた。


理研の山口由美は「(もともと日本列島にいた人々と)大陸からきた渡来人がどれくらい混血したのか。その違いを物語っているのではないか」とみる。


アジア・太平洋で同じような調査の試みもある。

調べたのはヒトゲノム国際機構(HUGO)のアジア共同研究グループだ。アジア10カ国・地域の90人以上の科学者が参加し、73集団、1928人について1人につき約6万カ所のSNPを分析した。


その結果、アフリカからインド、東南アジアにいたる現生人類の足どりが見えてきつつある。日本人の遠い「祖先」は東アジアやアジア北部に移動したり、南の島々に渡ったりしたらしい。


では、日本列島にはどのようなルートで入ってきたのか?


「現代の日本人の多くは、何万年も前に東南アジアにきた人たちの遺伝子を引き継いでいる。主なルーツは東南アジアと推定できる」。プロジェクトに参加した東京大教授の徳永勝士は、そう説明する。

 

「ただ、東アジアにしかないタイプも見られ、北や西からきた人々がいたことも否定できない」
プロジェクトに参加した各国の研究者は、いまも調査を続けている。

 

「祖先」の足取りがさらに詳しく見えるようになるかもしれない。

 

(後藤絵里)


(文中敬称略)

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