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落ち始めた売り上げ

[Part4]

USA/過ぎ去ったマンガブーム

 

アニメとマンガの祭典「ニューヨーク・コミコン」。

5回目となった昨年10月のイベントには、マンガやアニメの熱狂的なファンが全米各地から押し寄せた。来場者は3日間で9万6000人。これまでで最多を更新した。


ところが、米出版業界にかつての高揚感は乏しい。全米で500万人を超えた、とも言われるファンの順調な拡大とは対照的に、マンガの売り上げの方は急速に落ち込んでいるのだ。

米市場調査会社ICv2の推計によると、米国での日本マンガの売り上げは2002年以降順調に伸びてきたが、07年の2億1000万ドルをピークに減少に転じた。09年は1億4000万ドルまで低下。10年はさらなる下落が予想され、大手出版社ではタイトル数の削減と大規模な人員整理を急ぐ。


業績不振の原因は、金融危機後の景気低迷だけでは説明しにくい。バットマンやスーパーマンといった英雄モノで30?40代の男性読者を引きつける米国マンガ(コミックブック)は、09年の売り上げが07年比で6%減。これに対して日本マンガは同じ時期に33%の大幅減だったからだ。


「悲しいことだが、米国での日本マンガの人気はピークを越えた。売れ筋は出尽くした。日本で人気のない作品を持ち込んでも海外では勝負にならない」  日本マンガの翻訳版を刊行してきた出版社トウキョウポップの最高経営責任者(CEO)、スチュワート・リービー(43)は悲観的だ。


「ナルト」「ブリーチ」「ワンピース」。いずれも週刊少年ジャンプで連載されているマンガは、米国でも人気が高い。「09年に北米で売れた日本マンガの10冊に1冊はナルトだった」(関係者)。

「黒執事」や「ハートの国のアリス」も健闘しているが、これら数少ない人気マンガに売れ行きは偏りがちだ。


米国での本格的な日本マンガ人気に火をつけた立役者の一人がリービーだった。米国ではページを右から左へめくって読むのが一般的で、翻訳出版業界では米国の流儀にならって原版を裏焼きにすることでコマを左右ひっくり返してきたが、リービーは自社が刊行するマンガすべてをあえて裏焼きせずに出版した。


「Authentic MANGA(本物のマンガ)」表紙にはそう打った。それまでばらばらだったマンガの大きさを日本のものにそろえ、書店の同じ棚に並べられるようにした。擬声語や擬態語を日本語のままで残し、新しいものに飛びつきやすい若者の心をつかんだ。

 

「日本のゲーム業界のブランドづくりを参考にしたのです」リービーの試みは業界のコスト構造を大きく変えた。裏焼きをやめ、翻訳しない部分も残した結果、1ページ当たりのコストは3分の1~6分の1程度に圧縮され、価格も10ドル前後と従来の半値近くまで落ちた。


米国で日本マンガは当初、小さな専門書店で男性中心に売られていた。リービーは「少女マンガを大手書店に置けないか」と発案。日本では代表的な少女マンガの一つ「フルーツバスケット」を翻訳して出版し、それまで米国にはなかった少女マンガ市場の開拓に成功した。大手書店への進出は日本マンガ全体への関心を誘発し、大手書店がマンガ販売の主流となるに至った。


ただ、日本流の本の読み進め方や日本語をあえて残したことで熱心なオタクには歓迎されたが「逆に、日本マンガへの基礎知識がない一般の米国人を遠ざけてしまった」と、米国の作家兼翻訳家のフレデリック・ショット(61)は語る。


成人層を読者に持つ米国マンガに対し、英訳された日本マンガの読者は10代が中心だ。経済力に乏しく、流行にも左右されやすい。安定的な売り上げを目指す出版社には危険が伴う市場だ。


日本マンガを含めた米国でのマンガの市場規模は、日本マンガがブームになったとはいえ、いまだに書籍全体の3%弱。マンガが書籍全体の約2割を占める日本とは環境自体が異なる。認知度の高まりとともに、それなりの反発も覚悟しなければならない。

 

「日本マンガは暴力と性描写が多いという偏見を抱く保護者も多い。私も『あなたの作品に性描写はないか』と尋ねられる」と、自身の恋愛体験をもとに描いた米国マンガ「ロック&ロールラブ」の作者として知られる高嶋美沙子(33)は話す。


「似通った作品が書店に並ぶことは避けたい」
と話すイオニアス・メンザス
photo : Etsushi Tsuru

09年に日本マンガの出版に後発組として本格的に参入したバーティカルは、少年・少女マンガを卒業した青年読者層を意識する。

編集長のイオニアス・メンザス(38)は「大人に読んでもらうには人間の暗黒面も必要。努力、友情、勝利モノばかりでは駄目だ」。

 

北米最大のマンガ出版社ビズ(VIZ)の設立に力を尽くした堀淵清治(58)は「日本マンガの人気が出て、編集者はいつの間にか大きな魚を狙いにいくようになった。数字だけに追われず、面白いと心から思えるものを伝えてほしい」と話す。

 


急速に成長する電子書籍市場にどう対応するかも大きな課題だ。
業界には出版・流通・書店の「三位一体」構造が崩れてしまうことへの懸念も強い。紀伊国屋書店ニューヨークストア・マネジャーのジョン・フラーは「競合相手が多い電子書籍はできればやりたくない。でも、やらなければじり貧になる」と厳しい表情を浮かべる。


新聞や小説とは違って、文字と絵が同居するマンガを電子媒体でどう読みやすく見せるのか。クレジットカードを持たない子ども相手に商売が続くのか。課題は山積みだ。

 

(都留悦史)

(文中敬称略)

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