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落ち始めた売り上げ

[Part2]

FRANCE/もう売れるタマがない

 

パリのシャンゼリゼ街に面した書店「バージンメガストア」の控室には、
サイン会を開いたマンガ家たちの絵とサインがびっしり

パリの目抜き通り、シャンゼリゼにあるバージンメガストアのマンガ売り場では「プルートウ」や「バクマン。」「イキガミ」あたりが最近の売れ筋。

 

残酷描写が読み手を選ぶ超個性派の武士道マンガ「シグルイ」も当たり前のように平積みになっている。規模も品ぞろえも東京・銀座の有力書店をしのぐほどだ。


1990年代までは、一般の市民がマンガ本を目にする機会すらまれだった。フランス は実質10年で世界有数のマンガ大国へと急成長したのだ。そして、皮肉にも、この短期間の大成功が伸び悩みの原因ともなっている。日仏の2010年の売り上げ上位シリーズを比較すると、膨張が限界に近づいている様子がよく分かる。


 

 まずは仏のベスト5。①「ナルト」②「ワンピース」③「フェアリーテイル」④「ドラゴンボール」⑤「ブリーチ」。
 日本は①「ワンピース」②「ナルト」③「君に届け」④「フェアリーテイル」⑤「ブリ ーチ」(オリコン調べ、2010年)。ちなみに6位は共に「鋼の錬金術師」だ。

6作中5作が重複している。しかも、「フェアリーテイル」以外は、10年以上前に始まったロングセラーだ。米国でも事情は似通っている。


「ナルト」「ワンピース」「ブリーチ」という大ヒット3作を抱える集英社のライツ事業部長近藤裕は「欧米のマンガ読者はいきなり霜降り肉を食べてしまったようなもの」と評した。

 

同社の旗艦誌「週刊少年ジャンプ」は、68年の創刊時から少年たちの好みを研究し、内容を洗練させ、時代に合う作品を育ててきた。

今の日本の最大公約数が一番おもしろいと感じるテイスト。それは世界中で通用した。と同時に、テーブルいっぱいにマンガが並んでいても、他のものには目もくれずにそればかり読む偏食のお子様読者を大量に生んだ。

 


 

仏の出版界は、日本のメガヒット作を日本より速いペースで刊行することによって売り上げを伸ばしてきた。当然、アキレスと亀の競争よろしく、仏の刊行ペースは限りなく日本に近づいていく。

先を走る日本の「ナルト」最新刊は54巻、追う仏語版は51巻まで来ている。いよいよ米びつの底が見え始めた。


次なる展開が必要とされている。だが「のだめ」「デトロイト・メタル・シティ」の不振が物語るように、青年・大人向けの分野 は見通しが利きにくい。

 

カナ社のシュリーフは「フランスの青年マンガの読者は、成長した少年マンガの読者じゃない」という。 そもそも仏のマンガの隆盛は、日本アニメの集中豪雨的な垂れ流しから生まれたものだ。しかも多分に偶発的な。


日本アニメの放映が爆発的に増えたのは70年代の終わりから80年代にかけて。「80年代半ばに電波が民間に開放され、放送局は安価な番組を血眼で探していた。翻訳前の日本アニメなら当時、1本数千円から買えたから」と、アニメとマンガの専門誌「アニメランド」編集長のオリビエ・ファレ(41)はいう。


 中でも、アニメを詰め込んだ子ども向け番組「クラブ・ドロテ」は驚異的な視聴率を記録した。欧米のアニメにはなかった刺激的な演出と悩み成長していく登場人物。日本は子どもたちのあこがれの国になった。ところが、好事魔多し。日本では当たり前の暴力表現が親世代の非難を受ける。

 

同じ時期、保護主義が広がったこともあって、90年代の半ばには潮が引くように、日本アニメが地上波から消えていった。


「ドロテ世代」は、失われたジャパンポップを渇望した。読めもしない日本語のマンガを収集し、土曜の午後はパリの書店で情報交換会を開いた。「ジャパン・エキスポ」も、この世代の日本文化への渇望から生まれたイベントだ。


大ベストセラー「ドラゴンボール」も、初期の大ヒット「聖闘士星矢」も「ドロテ」で流れた人気アニメの原作だった。フランスの読者はアニメから出発して単行本でマンガの面白さに目覚めた。

日本のマンガ読者が60年代に始まるマンガ雑誌の発展・系列化とともに育っていったのとはまるで違う。


出版する側は、読者の渇望するモノを供給しただけ。これが海外での次の一手を難しくしている。その国ならではの新しい売れ筋を開拓しようにも、雑誌連載をしてみて手応えを知るという日本的手法は使えない。系列の雑誌を受け皿にした、少年マンガから大人向きマンガへという誘導もできない。


仏における困難な状況を打ち破る力として、日本の出版社が期待しているのは、ジャパンポップに対して深い理解と尊敬がある、「ドロテ世代」の編集者たちだ。 「鋼の錬金術師」を出している仏出版レーベル「クロカワ」のマンガ部門の責任者グレゴワール・ヘロー(35)は、かつて「アニメ・タイガーマスク」論を「アニメランド」に寄稿したことがある。


「少年マンガ以外の世代にマンガを広げないと厳しい」とヘローはいう。もっか手がけているのは「聖☆おにいさん」。3月の刊行を目指している。


キリストとブッダが天界から日本に降りて、まったりとつましい休暇を過ごすストーリー。国によって事情が異なる宗教が絡むだけに、作者の中村光は「海外では発刊が難しい」と見ていた。だが、ヘローはねばり強く交渉して出版権を勝ち取った。

「キリストが出ていると知れば、今までマンガに関心のなかった大人も手に取ってくれるだろう。読んでくれれば、間違いなく面白い」


このマンガの中では、主人公のブッダが毎回、異なるTシャツを制作する。そこに書かれる脱力ロゴも、すべて仏語に翻訳するそうだ。

 

(鈴木繁)

(文中敬称略)

 

 

「ワンピース」尾田栄一郎作
(集英社/週刊少年ジャンプ/1997-)
海賊となった少年ルフィが秘宝を目指して仲間とともに冒険と戦いを繰り広げる

 

「ブリーチ」久保帯人作
(集英社/週刊少年ジャンプ/2001-)
悪霊を退治することになった高校生黒崎一護とその仲間たちの活躍を描く

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