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落ち始めた売り上げ

[Part1]

FRANCE/バブルがはじけた?

 

フランス語版マンガの大手カナ社は、ブリュッセルのミディ駅近くにあった。

ベルギーはバンドデシネ(BD)と呼ばれる仏語圏独特の大判コミックスの出版が盛ん。一番有名なキャラクターは、愛犬と世界中で冒険を繰り広げる少年新聞記者のタンタンだろう。街中のそこかしこに描かれていた。

 

けれど、カナ社の応接スペースで迎えてくれたのは、ドラえもんの飾りが無数に下がるクリスマスツリー。それに陳列棚の上に並んだ新刊の仏語訳日本マンガ。

 

おおっ。その一癖あるラインアップに思わず目を奪われた。

右端に松本大洋「竹光侍」3巻目。山田貴敏「Dr.コトー診療所」18巻、神尾葉子「キャットストリート」3巻、枢やな「黒執事」1巻と続き、「闇金ウシジマくん」「さらい屋五葉」「バクマン。」などを経て、昭和の絵師、上村一夫の「凍鶴(いてづる)」で終わっている。

 

カナ社は、海外で最も人気が高い日本マンガ「ナルト」の仏語版の出版元でもある。編集責任者イブ・シュリーフ(51)がにやっと笑いながら現れた。「中には売れないだろうと分かっていても、あえて出した作品もある。どうだ、カミムラの絵、いいだろう」

 

そのうちとけた口調に誘われ、思わず単刀直入に尋ねてしまった。日本のマンガは、売れなくなったんですか。

「頭打ちになっていることは確かだ。日本マンガは売れすぎた。『ナルト』は仏文学のどんな有名作家よりも売れた。今も売れ続けている。ただ、続く大ヒットが出てこない。新しい少年マンガがフランスには必要だ」

 

昨年仏国内で発行されたマンガ単行本は、前年より100点以上増えて1631点。しかし、売り上げは約1億ユーロ(約111億円)で、前年比3.6%の減。仏語圏にマンガが広く普及して以来例のない大幅な後退となった。

 

売れ行きが思わしくないだけではない。何がウケて何がウケないのか。その見極めが難しい。「特に、大人向けのマンガが」とシュリーフはいう。

 

「のだめカンタービレ」といえば現代日本マンガの精華、国民的人気作品だ。ドラマ化され、CDも売れた。仏語版は、有力出版社のピカ社から2009年に刊行された。ところが、思いもよらぬ大不振。社長のアラン・カンが「部数? 少なすぎて公表できない」と顔を曇らせるほどだった。

 

カナと並ぶ大手グレナ社で「ドラゴンボール」を手がけた有名編集者ドミニク・ブルドは、07年に新出版社を立ち上げる。翌年発刊したのが「デトロイト・メタル・シティ」。青年マンガの大ヒットだ。ところが、仏では平均5000部ほどしか売れなかった。

 

一方「多い時には1万数千部を売り切る」と底堅いのが、男性同士の性愛を描く女性向けマンガBL(ボーイズラブ)の試し読みムック「ビーボーイ」だ。出版元、カゼマンガ社の編集責任者ラファエル・ペン(35)は「翻訳出版は、まず読者の渇望ありき、なんだよ。BLと比べ、大人の異性愛を描くレディースコミックは難しい。読者が見えないから」と語る。

 

フランスは日本のアニメやマンガが最も愛される国として有名だ。パリ郊外で毎年開かれる日本文化の祭典「ジャパン・エキスポ」は、昨年18万人が集う盛況ぶりだった。なのに、なぜ売り上げが伸び悩むのか。米国でも最近マンガが売れなくなっている。

何かが起きているに違いない。

 

(鈴木繁)

(文中敬称略)

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