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[Webオリジナル] 死刑を考える

 

[第2回]

中国側は、日本のサイバー戦能力を過大視


LAC特別研究員 伊東寛さんにきく

 

米国などが「サイバー攻撃の発信源」とみている中国。その中国の側から海外のサイバー事情を見た場合、日本はどのように映っているのだろうか。中国共産党の機関紙「人民日報」のインターネット版「人民網」の日本語サイトに、「こんなおもしろいリポートが載っている」と、情報セキュリティー会社大手「LAC」(東京)の特別研究員、伊東寛さんに教えてもらった。伊東さんは陸上自衛隊が2005年に立ち上げたサイバー部隊「システム防護隊」の初代の元隊長(1等陸佐)でもある。(聞き手・谷田邦一)

 

「日本など各国の『サイバー戦』軍備」と題するリポートの著者は、人民解放軍軍事科学院の研究員。日本の防衛省のシンクタンク・防衛研究所にあたる機関の研究レポートのような位置づけになる。それによると、自衛隊のサイバー能力を「攻守兼備」と見越し、「多額の経費を投入し、ハードウェアおよびサイバー戦部隊を建設している」と分析。このあたりまでは「なるほど」とうなずける。
ところが、それに続き「5000人からなる『サイバー空間防衛隊』を設立、開発されたサイバー戦の『武器』と『防御システム』は、すでに比較的高い実力を有している……」という記述になると、かなり誇大視されているのではと思えてしまう。

防衛省が自前のネットワーク防護のために立ち上げた3自衛隊統合の「指揮通信システム隊」は、約160人。同システム隊に組み込まれる部隊で、来年度予算で要求している「サイバー空間防衛隊(仮称)」の要員も100人に満たない規模のとどまる見込みだ。5000人といえば、沖縄地方を防衛する陸自の第15旅団(約2100人)の2つ分以上に相当する。「大きく見てくれるのはありがたいが……」と伊東さんは苦笑する。サイバーの世界では、いかに相手が大きく見えてしまうかを物語る典型的な事例ともいえる。

インターネット空間を新たな「戦場」とみなし、サイバー戦争への備えを進めている国々は20カ国以上といわれる。伊東さんに、身近な国々の現状についてまとめてもらった。

 

【中国】
10年ほど前に、現役の空軍大佐が著書で「超限戦」という将来の戦争のコンセプトを紹介した。その中に、「生物・化学兵器戦」や「新テロ戦」など、従来は戦争行為としてタブー視されてきた戦法の数々と並んで「ハッカー戦」が取り上げられていた。すでに中国には数千人規模のハッカー部隊が存在するといった見方もあるが、軍のサイバー戦能力はそれほど高くないのではないか。富裕層が軍隊に入らない傾向があり、入隊した若者もコンピューター関連の教育を受けたらすぐに辞めて、待遇のいい民間の仕事につきがちだ。人材育成が中国のサイバー部隊の抱える問題だという内輪話もある。
むしろ民間人ハッカーのサイバー能力は極めて高いと考えられている。ネット社会で実際に起きているハッキングの実態を見てもそれがわかる。彼らを含めれば中国全体のサイバー能力は極めて高いと考えられる。

【ロシア】
ロシア軍のサイバー部隊について具体的に書かれた公刊情報はほとんど見あたらない。ロシアとの対立があった2007年のエストニア、2008年のグルジアは、ハッカー集団によるとされるサイバー攻撃を受けたが、ロシア政府はこれらの攻撃への関与を否定している。だが、これらの攻撃は、能力の高さをうかがわせており、とくにグルジア侵攻では、ロシア軍の軍事作戦と連動した軍当局のサイバー攻撃ではないかと疑われているものもあった。いずれにしろ、将来的には大きな戦力に発展する可能性がある。

【北朝鮮】
脱北者の証言によれば、北朝鮮の大学は1981年以来、毎年100人規模で、サイバー戦のための技術者を輩出している。92年には攻撃用ソフトウエアの開発に成功したというものもある。これが事実だとすれば、20年近く前からサイバー戦の準備をしていたということになり注目すべきだ。韓国の研究者の分析によっても、北朝鮮はハードウエアの技術力では見劣りするものの、ソフトウエアの開発能力は先進国並みで、技術水準はかなり高いとみられている。独特の政治体制のもとで優秀な若者を早い時期から集め、コンピューターの英才教育をしているからだろう。世界的にみても北朝鮮のサイバー戦能力はかなり高いと見てよさそうだ。

 

こうした調査・分析を踏まえた上で、伊東さんは「主要国は、サイバー対策を国の安全保障の観点から位置づけているのに、日本にはそうした視点が欠けている。各国との協力を深めるためにも、自衛隊への任務付与を含め具体的な法律や政策の整備を急ぐべきではないか」と呼びかけている。


 

 

 

 

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