TOPへ
RSS

[Webオリジナル]NEXT PAGE

[第2回]

「日本は立ち遅れた。これから5、10年後に文化面、情報面でギャップが生じてくるのではないかと思います」

劉迎建・漢王科技会長

 

北京市内のホテルで会った「中国の電子ブック王」の名をもつ漢王科技の劉迎建会長は、エネルギッシュな経営者だった。長年あたためていた電子ブックの商品化で、中国市場を握った。そのアイデアは、教育現場やオフィス、新聞業界にも大きな変化をもたらしそうだ。「日本との競合でここまで鍛えられた」という劉会長。それだけに、電子ブックや携帯電話、あるいはパソコンでも沈黙する日本企業に「残念だ」という。

(2010年4月6日、北京市内で。聞き手・鈴木暁子)

 

――「中国の電子ブック王」とも呼ばれているそうですね。いつから、電子ブック端末に注目していたのですか。

劉迎建 思いついたのは1984年でした。手で書いたものがデータ化される「電子ノート」を作りたかったのです。電気、磁気、超音波、圧力を試したり、文字を光学的に読み取ってデータ入力できるペンを開発したり、いろんな方法を試みました。2006年に、米国の家電見本市でイーインクを見つけたときは興奮しました。紙と同じように印刷でき、繰り返し書くことができる。本、雑誌、新聞などはぜんぶペーパーレスになると思った。

リウ・イン・ジエン 1953年生まれ。82年人民解放軍通信工程学院コンピューター系を卒業。人工知能と手書き文字識別装置の研究を続け、85年に特許を取得。98年に漢王科技を設立した。漢王は活字をデジタルデータに変換するOCRソフトの大手。パソコンに文字や絵を入力するペンや、顔・指紋認証システムなどを販売。2008年発売の電子ブックのヒットで業績を拡大。iPad型のタブレットPCも発売した。2010年3月、深セン証券取引所に上場。

帰国後すぐさま社内に開発チームを立ち上げました。06年にソニーがReaderを出し、07年にアマゾンがKindleを発売した。漢王は08年1月、2年がかりで製品を発売しました。話題づくりのため、広告はわざと「读书人狂喜,印书人跳楼! (読書する人は大喜び、出版社は飛び降り自殺)」と、過激なキャッチフレーズにしました。新聞掲載は断られましたが、載せてくれたところもありましたよ。電子ノートから電子ブックへの方針転換は正しかった。おかげさまで売上高は前年比150%増です。

 

――電子ブックをどのように普及させる計画ですか。

 09年は生産が追いつかない状態で、27万台を販売しました。成長が続いています。だれもが一つ、電子ブック端末を持つ時代が必ず来ると思っています。私が考えている用途その(1)は、小説や漫画を読むためのもの。その(2)は学生用。教科書や辞書、参考書を入れて宿題もできる。その(3)はペーパーレスオフィス。その(4)は通信です。ある意味、携帯の役割を果たすようになると思う。今はちょっとしたディスプレー機能のみの端末にしかみえませんが、非常に将来性があります。IT製品は、一つの革新が産業発展をもたらす。デジカメや音楽プレーヤーがそうでしたが、この電子ブック端末もそうなるでしょう。

中国では普及に10年かかるのではないかと思います。スクリーンの価格が高いからです。でも、昔の携帯電話やデジカメの画面よりは、ずっと安い。今後も、速いスピードで下がるでしょう。今年のスクリーン価格は、昨年よりすでに20%は安くなっています。

 

――学校や職場での普及に向けたアイデアは。

 オフィス向けは少し大きい端末を作らないといけません。A4判ぐらいの。OAによって紙使用量は減ると思われていたのに、実際は増えた。印刷する前に、まず端末に入れる習慣をつくっていかないと。通勤途中でも会議のときでも使えるし、分厚い書類を持ち歩かなくてもよくなります。

学校への導入には、政府も非常に関心を持っています。特にカラー化できたら、教科書の代替品として十分です。世界中で、子どものかばんが重すぎるという問題があります。できるならこの薄い端末に、教科書、鉛筆ケースなど全部入れてしまう。学生の負担を軽くする手段ですよ。今は、まだ中国でもテスト段階です。コスト、信頼性、画面の壊れやすさという課題が残っている。大型化、カラー化も時間がかかるので、一歩ずつやります。5~10年の間にそういった問題も解決していくでしょう。

 

漢王を世界ベスト500位以内の企業にしたい

 

――中国でも、新聞業界が電子ブック端末に注目しているとか。同業者として気になります。

劉 心配しなくて大丈夫。新聞はおそらく紙ではなくなるけれど、新聞社は残りますから。必ず。いまは紙、印刷、輸送、配達、販売拡張費すべてが必要ですが、電子ブックに新聞が載るようになれば、これらのコストはすべて省ける。人類にとっても、エネルギーを節約できる利点があります。

漢王の端末でも、新聞のダウンロード配信をやっています。私たちは新聞コンテンツを半年間無料にし、今年下半期からは、試験的に広告を入れる予定です。端末ユーザーが仮に12万人だとすると、広告を見るのも12万人。新聞社は広告を収入源にできる。中国の新聞社は非常に電子ブックでの事業展開に関心を持っています。インターネットの時代、新聞社はコンテンツの無料化傾向もあって、なかなか稼ぎにくい。でも電子ブックの時代には息を吹き返しますよ。

 

――海外にも中国語を使う人はたくさんいます。海外展開は。

 いまは中国販売が8割を占め、その他の国が2割。今年は中国6割、その他を4割にしたい。全世界のどこにも華僑はいますし、通信機能を使えば中国の新聞や本も読める。まず欧米の店舗、出版社、電信会社にOEMで販売します。日本市場は難しいかなあ。

いまはアマゾンが世界一、ソニーが二番で、世界では漢王は三番手ですが、まもなく、漢王が1位になりますよ。中国は人口が多いですから。中国国内にもライバルはいるけれど、我々とはあまりにも遠く離れています。中国では電子ブックだったら漢王、二番はだれも知らない。50社ぐらいありますよ。

私は漢王を世界ベスト500位以内の企業にしたいのです。まだまだ遠いから、がんばりますよ。

 

――日本企業は電子ブックの製造ではあまり目立ちません。どう思いますか。

 大変残念に思います。日本も電子ブックを重要視しないと、これから5~10年後に文化面、情報面でちょっとしたギャップが生じてくるのではないかと思います。パソコン、携帯、自動車と同じです。ちょっと立ち遅れましたね。日本だけでなく、欧州もです。米国にはアマゾン、中国には漢王があったけどね。

 

――これまでは、日本企業とも激しく競争してきたそうですね。

 全世界で競争していますが、一番厳しいのが日本企業との闘いでした。日本企業は非常に忍耐強い。特に、Wacom(本社・埼玉県)は強敵でした。パソコンに手書き入力できるペンタブレット、OCR(光学文字認識)技術、人の顔の識別でも競合した。日本製品は非常にきめ細かい。我々もいいものを作りたかったが、できなかった。それによって鍛えられたのです。やっと、ほぼ肩を並べました。今はもう、区別がつかないと思っています。手書き文字の識別では米国企業に鍛えられました。やっと、中国の携帯はすべて手書き入力ができるようになった。ほとんど漢王の技術です。

まだ、日本の技術とはギャップがあります。日本の工業デザイン、生産技術は、いずれも非常に質が高い。漢王の工場設備も、鋳造機などいいものは日本のトップレベルのものを導入しています。ただし、携帯電話や電子ブック端末では、日本にはあまり優位性はなくなりましたね。

ところで、記者さんは日本の電子ブック市場は今後どうなるとお考えでしょうか。漢王の製品を日本で売れば買ってもらえるでしょうか。……そうか、まだ知名度が足りませんか。それでは日本の新聞に漢王の広告を出そうかな。

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ