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[Webオリジナル]インタビュー越境する数学

[第2回] オリガミ理論を応用すれば、持ち運び可能で折りたためる建物ができる

舘知宏さん 東京大学大学院博士課程


作品を手にする舘さん

特集で取り上げた数学者、エリック・ディメインの最新の論文の共同執筆者に、日本の研究者がいる。東京大学大学院工学系研究科で博士課程に在籍する舘知宏さん(27)だ。舘さんの専門は建築で、立体的なオリガミ作品を生み出す工芸家でもある。いま、オリガミを建築の分野に生かす研究が進んでいる。
(2010年1月31日、東京都内で。聞き手・宮地ゆう)

 

 


――エリックとはどのように出会ったのですか?

一枚の紙から折られたティーポット

舘知宏 06年、コンピューターグラフィックスの学会で、オリガミで立体的に作ったティーポットを展示していました。そうしたら、その作品をエリックが見て、「とても面白い」と話しかけてきたのが最初です。

ティーポットの展開図

その当時、エリックはすでにオリガミの世界では有名人でした。その1カ月後にオリガミの国際会議があり、私はオリガミの動きのシミュレーションをするソフトと、立体的なウサギの展開図を作るソフトの原形になる理論の発表をしました。そこにもエリックが来ていて、「任意の形状を与えればそれを必ず一枚の紙から作れる、ということが証明できるのではないか」と言い始めたんです。ソフトは作っていたので道具はあるにしても、本当に何でも作れるのか、作れないのだとしたらどんな条件が出てくるのかということを、2人で議論しました。これは非常に難しいテーマでした。

立体の任意の形を入れると自動的に展開図が作られる

エリックは当時すでにどのような多面体でも一枚の紙で覆うことができると証明していた。でも、彼のやり方では、細長い紐状の紙をつかうので、出来上がった形に隙間が出来てしまう。つまり、連続した面だけでその形を完全に覆うことができないのです。そこで、連続した面で覆うオリガミを作るというのが私のテーマになりました。紙に襞を加えていけば一枚の紙が立体的に変化する。ただ、凸な多面体(へこんだ部分がない)は作ることは比較的簡単だけれど、へこんだ多面体も作れる、となると難しい。ようやく、こうやれば隙間なく連続した面で全ての多面体を覆うことができる、という理論を2人で証明した。昨年の12月に論文を執筆したばかりです。


――最初はどのようにしてオリガミと出会ったのですか。
 こどものころから本を見ながら折り紙を折るのは好きでした。でも、そのころは人が作った形を折るだけでした。自分でデザインしたり、形を自分で生み出したりするようになったのは大学に入ってから。オリガミを数学的に考えるようになり、折りたい形を作り出す体系的なやり方があるのではないかと考えるようになった。たとえば、一枚の紙から足が6本ある虫とか、長い触覚がある虫とかが作られています。そういう作品を見て、これは面白い世界だと思うと同時に、さらに方法論を三次元へと拡張できるのではないのかというチャレンジングな研究の可能性を思いつきました。


――立体のウサギの展開図の複雑さも驚きますが、これを本当に作ったのもすごいですね。

折りたたむのに10時間かかったウサギ。一枚の紙から作られている。

 あのウサギは折るのに10時間かかりました。まずは山折り谷折りの線を全て折っていきます。頂点になる部分をクリップで留めながら、形にしていきます。ウサギの表面は全て三角形で出来ていて、この三角形が隙間なくつながっています。この三角形を小さくすればするほどなめらかな曲面が生まれるわけです。ウサギを作っている過程をビデオに撮り、早回しにして「youtube」や展示会で公開していますが、窓の外の日が暮れて行くのが見えます。

私は「オリガミ工学者」と自称しています。あるいは、コンピュテーショナル・アーキテクト。理論の世界も魅力的ですが、実際に作り出すほうも面白いところです。


――建築とのつながりはどのように広がっているのでしょうか。

折りたためる建物のデザイン例

 オリガミの理論を建築に応用することで、持ち運び可能で、折りたためる建物が可能になります。たたんで運んで、行き先で展開するわけです。たとえば、既存の建物と建物をつないで別の空間を生み出したり、何もないところ、たとえば自然災害の被災地などに仮設の建築物を作ったり、あるいは、宇宙空間までたたんで持っていって宇宙で開いて建物を造ることもできるのではないかと思います。

既存の建物の間に持ってきて広げると新たな空間が生まれる

つまり、オリガミ工学を使い、形や機能、敷地条件などを与えると、それにフィットする形を計算して生み出すプログラムがあればいい。幾何学とアルゴリズムの問題なので、建築に限らず、巨大な宇宙構造物から、体内に入っていく薬や手術器具など、応用範囲はかなり広くあります。


――この分野の展望は?

 オリガミの世界はいま、日々発展しています。国際会議には世界各国、様々な分野でオリガミを研究テーマとしている研究者が100人くらい集まってきます。芸術も工学も数学も全てつながっている。それが面白いところです。工学的な利用だけでなく、芸術としてのオリガミという側面があるのも魅力です。この分野自体も数学とコンピューターの発展を受けて発展してきました。物理、工学、数学、アート、教育などが関連しあいながら研究が進んでいて、数学者や工学者だけでなく、いろんな研究者・芸術家が探索している世界でもあります。

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舘さんの作品の一部は2月28日までNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)ギャラリーA(新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4F)で行われている展示「可能世界空間論 --空間の表象の探索、のいくつか」で見ることができる。

また、同じ東京オペラシティタワー3階にある「東京オペラシティアートギャラリー」では、展示会「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」も開催中。構造デザイナーのバルモンドはスリランカ生まれ。アフリカとヨーロッパで科学、数学、建築を学び、現在ペンシルバニア大学教授。植物の枝分かれや葉の葉脈、螺旋状に実るひまわりの種の配列など、自然界に宿る数学の法則を取り入れた建築の構造デザインを手がけ、多くの建築家と作品を生み出している。

展示されている「《H_edge(ヘッジ)》 2009」( photo:Alex Fradkin)

(東京オペラシティアートギャラリー提供)


(文中敬称略)

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