TOPへ
RSS

新たな概念

[Part2] 

未征服の最高峰「リーマン予想」 裾野を歩く (2)

◇ 近代数学の転換点 ◇

だが、数学者たちは、きっと何かパターンが潜んでいると考えた。最初の扉を開いたのが、スイス人数学者、レオンハルト・オイラー(1707~1783)だ。素数にとりつかれ、10万を超える素数表を作ったことで知られる。
14世紀には、自然数の逆数の和、つまり1、2、3、……で1を割った数を無限に足していくと、ある数に近づくのではなく、無限に大きくなっていくということがわかっていた。(数式1)

 

 

 

 

では、自然数の2乗の逆数の和を無限に足し合わせたら? オイラーは、今度は無限大にはならず、ある数に近づいていき、その数は円周率πの2乗を6で割った数になることを突き止めた。(数式2)

 

 

 

 

この問題を解く過程でオイラーはさらなる発見をした。それは、次の式だ。(数式3)

 

 



 

左辺は自然数の2乗の逆数を足し合わせたもの。右辺に出てくる2、3、5、……は素数だ。数式2と数式3をつなげてみると、なんと円周率πと素数がつながっていたことがわかったのだ。

数学は、記号を使うことでより便利に書き表せる。規則的に並んでいる数をすべて足し合わせた総和を表す「Σ」(シグマ)や、かけあわせた積を表す「Π」(パイ)を使うと、上の式は、(数式4)と表せる。pは素数(prime number=最も重要な数)だ。(数式4)


 

この左辺と右辺を等号(=)でつないだ「オイラー積」と呼ばれる式は、画期的な発見だった。

なぜ画期的なのか。リーマン予想に詳しい東京工業大教授、黒川信重は「だれも自然数に関する和が、素数に関する積で表現できるとは思わなかった。素数の解明に一歩近づく、近代数学のターニングポイントだ」という。

やはり素数には、何らかの規則性が潜んでいる。そんな期待感が高まった。

第2の扉を開いたのは、ドイツ人数学者、カール・フリードリヒ・ガウス(1777~1855)だ。素数の大まかな分布には、一定の法則があるのではないかと考えた。

下の図を見てほしい。1からある自然数nまでの間に、素数がいくつあるか、その分布はどう変わるのかを示した。この個数をπ(n)と表す。

1からnの間に素数が現れる間隔をならしてみる(平均をとる)と、どのくらいになるのだろうか。10までの間は素数が4つだから平均間隔は2.5。100(10の2乗)までは4。1000(10の3乗)までが5.95。徐々に間隔が広がっていく。その「広がり方」に注目していくと、最初の1.5から徐々に増えていき、100万(10の6乗)を越えたあたりから、10倍になるに従って約2.31ずつになることがわかる。(図2)

 



ここからガウスは、1からnまでの素数の個数π(n)は、nを大きくすると、n/lognに近づくと推測した。logというのは、累乗をわかりやすく表現できる「対数」を表す記号だ(下段の■「対数って?」を参照)。式で書くと、次のようになる。「~」は「同程度に等しい」という意味だ。(数式5)


これはオイラーも触れた予想だったが、ガウスは15歳のころ独自に発見。さらに精密な近似式をひねり出してもいる(下段の■「ガウスの近似式」を参照)。

それまでの数学者たちは、いわば素数の奏でる音の一つひとつに耳を傾けているだけで、音楽全体の構成は理解できなかった。ところがガウスは、どんどん数を数え上げていったとき、そこまでの間に素数がいくつあるかという問いに集中することで、主旋律を聞き取る新たな方法を見つけた――数学者のマーカス・デュ・ソートイは、著書『素数の音楽』で、そう表現している。

だが、数学者は、「真理」に執着する。

「~」(同程度に等しい)ではなく、「=」で表現できる数式はないのか。数学者たちは、躍起になった。

(次ページへ続く)

 

■ 対数って?

100は10の2乗、1000は10の3乗というように、大きな数になると、「ある数の何乗」という指数表示が便利になる。「対数」は「何乗」を表したもので、logという記号を使う。

■ ガウスの近似式

数式5よりも精密な近似式として、ガウスがひねりだしたのが、積分を使った。下の式だ。

 

 

この右辺は、「対数積分」と呼ばれ、後ほどまた登場するので、Li(x)と表すことにする。グラフ化してみると、この数式は、数式5よりもπ(n)に近い式だということがわかる。

 

 

 

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ