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年金、医療など社会保障制度が整備されてから本格的な少子化が始まるまで比較的時間の余裕があった日本に比べ、韓国は少子化が進む中で制度の拡充も同時に進めなければならないという重い課題を背負っている。ソウル大で社会保障を研究する金尚均(キム・サンキュン)教授に医療保険の問題を中心に現状と課題を聞いた。(2009年12月17日、ソウル大で、聞き手・太田啓之)
――社会保障制度の大きな役割として、これまで家族が担っていた「高齢者を扶養する」という役割を社会的に代替する、ということがあります。韓国の社会保障制度の現状は、家族機能の代替として十分な役割を果たしているでしょうか。

金尚均 残念ながら、十分とは言えないだろう。例えば貧困者に対する生活保護は、働けない高齢者でも本人に子どもがいる場合は受給できない。子どもと連絡が取れなかったり、子どもに扶養能力がなかったりする場合でもそうだ。受給条件を緩和すれば、今まで親を養っていた子どもまで扶養を放棄するモラルハザードが起き、生活保護の費用が大きく膨らむことを政府は恐れており、条件緩和に二の足を踏んでいる。国民年金制度も88年の発足からまだ十分に時間がたっておらず、受給額は十分ではない。その結果、韓国は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも、老人の貧困率が最高水準の国となってしまっている。今後、高齢者の扶養はもちろんのこと、障害者福祉や子育て支援の面でも国の責任範囲の拡大が必要だ。
――急激な少子高齢化は、公的医療保険にどのような影響を与えますか。
金 韓国の医療保険は低負担、低給付で、自己負担の割合は平均して4割と高い。保険が適用されない医療サービスも多く、CTやMRIによる検査は全額自費となっている。自己負担の軽減と、保険給付の対象となる医療サービスの範囲拡大が課題だ。
保険料の未納問題も深刻だ。現在、加入者の約4割が自営業者でその8~9割が零細の商人だ。保険料を滞納しがちで医療を受けられない人がいる。一方で、3カ月分の保険料を支払えば保険給付が受けられるので、加入と脱退を繰り返す人もいる。
――日本の医療保険制度では、大企業の従業員中心の健康保険組合、中小企業向けの協会けんぽ、自営業者向けの市区町村国保と多くの保険運営者が分立しています。一方、韓国では医療保険の運営を一元化しました。日本の民主党政権も一元化を目指していますが、一元化のメリット、デメリットについて教えてください。
金 以前は250もの医療保険に分かれており、財政力の格差も大きかった。経済力によって受ける医療に格差が生じてはいけない、ということで、1998年から段階的に統合を進め、00年には全国単一の保険管理組織として「国民健康保険公団」が成立し、03年には財政面でも統合が実現した。
一方で、不要な治療や検査、投薬などが行われる医療サービスの濫用と、それによる医療費の増加が新たな問題となっている。以前は各保険者が、支出増により他の医療保険よりも保険料が割高になることを恐れ、医療サービスの濫用を厳しく監視をしていた。
現在は保険が一元化したことにより、そうしたインセンティブが薄れてしまった。医療保険の統合に伴い、「健康保険審査評価院」という新しい組織もできたが、被保険者の数が多く、適正な医療が行われているかどうかを十分に審査するのは難しい。特に薬の濫用がひどく、00年、01年の薬にかかった費用は連続して前年比4倍以上の伸びとなってしまった。それが医療保険財政の悪化にもつながっている。
――今後、高齢化に伴う給付増で、保険料率の引き上げは避けられません。国民の合意は得られるのでしょうか。
金 2000年の会社員の保険料率は、本人と会社折半で2.8%だったが、09年には5.5%まで引き上げられた。だが、国民の間で医療サービス充実の要求は高く、値上げとともに保険が受けられる治療の範囲も広がっているので、現在のところ大きな不満は出ていない。現在、韓国の医療費の国内総生産(GDP)に占める比率は7%程度だ。政府は将来的にも医療費を国内総生産の1割未満に留めたい意向を持っている。だが、韓国の65歳以上人口の比率は09年の10%から25年には20%に倍増する。医療費の抑制が困難な課題となるのは避けられないだろう。