TOPへ
RSS

[Webオリジナル]結婚と少子化の間で

[第3回] パートタイムなど働き方の選択肢を増やしていきたい

ジョセフィン・テオさん シンガポール国会議員

シンガポールの国会議員で、労働問題や女性問題などに関して積極的に発言しているジョセフィン・テオさんに、少子化の背景や対策について聞いた。
(2009年12月18日、シンガポールで。聞き手・原島由美子)

 

──シンガポールだけでなく、日本、韓国、台湾など、アジアで晩婚化、少子化が急速に進んでいます。これらの国々に何か共通点を見いだしていますか?

Josephine Teo
1968年生まれ、シンガポール国立大卒、ロンドン大学経済政治学院(LSE)で経済学修士号。公務員の夫(43)と、11歳の息子と9歳の双子の娘を育てている。

ジョセフィン・テオ いずれも教育熱心で、家族の絆が強い国々です。アジア社会では子供は家族の将来を担うという期待と責任を背負い、成功を求められる。その傾向が男子だけでなく女子にも広がって、女性の高学歴化が進み、仕事のチャンスも増え、自力で生きていける経済力がついてきた。その結果、女性にとって結婚は今や、必ずしも人生で必須のものではなくなりました。

10、20年ほど前はシンガポールでも女性が35歳で独身だと、かなり奇異に思われ、家族、親族の間ではタブー視されることが多かった。でも、今や旧正月に親戚一同が集まれば、40、50歳代で離婚している人や独身者がいても。誰も気にしなくなりました。社会に独身女性を受け入れる余裕、土壌ができ、女性が自分の人生を自分で選択できる幅が広がってきたのだと見ています。


──シンガポールの学歴社会は、少子化の要因になっているのでしょうか。小学生から学力別コース分けが始まり、統一テストが繰り返されて、エリートとそれ以外が振り分けられていくという、独特な教育システムですね。
テオ シンガポールには天然資源がありません。「資源は優秀な人材だけ」なので、教育は個人ではなく、全国民の問題なのです。中学校進学率は98%以上で、そのうち技術系専門高等学校や短大などに進む人が3割、大学進学率は3割です。高学歴になればなるほど、職業の可能性が広がるとなれば、親の自然な心理として子供の教育に熱心にならざるを得ません。その分、重圧も大きい。子供が悪い成績をとると、働く母親は自己嫌悪になり、仕事をやめて、教育ママに専念した方がいいのでは、とさえ思ってしまう。

 
──教育以外でシンガポールならではの晩婚化、少子化の要因はありませんか。
テオ シンガポールは1965年に独立した、比較的新しい都市国家です。郊外といっても車で30~40分程度しか離れていないし、他に行くところもあまりない。そのせいか、人々の仕事、私生活すべてのテンポが速い。毎日を忙しく過ごしているうちに、結婚の機会を逸してしまう。もう少し、生活のペースをもう少しゆるめてもいいと思っています。

──どのような対策が望ましいのでしょうか。
テオ 子育て中の女性がフルタイムで働くと、仕事と家庭の両立に悩むことが多い。仕事が忙しいからといって子供のしつけや教育を放棄し、教育者ではないメードにすべてを押しつけるべきではないでしょう。仕事と子育ての両立のため、子供が学校に行っている間だけ働くといったパートタイム就業制など、働き方の選択肢をもっと増やしていきたい。必ずしも、全員が一斉に同じ時間に働く必要はないのです。ワーク・シェアリングを進める必要性を感じています。


──日本では不況になった途端、期間や時間を限定した雇用形態の従業員から解雇されていきました。正社員でなくなれば、雇用の安定性が失われませんか。

テオ 270万人いる労働者のうち、3分の1はシンガポール国籍以外の人が占めています。外国人労働者を雇用の調整弁として使えば、シンガポール人には影響が出ないようにできます。女性の出産・育児休暇を取得している数週間から数カ月の代替雇用も、外国人でまかなえます。


──ベビーボーナスや税での優遇、保育園費の補助など、政府はさまざまな少子化対策を進めていますが、出生率は改善していません。

テオ 確かに1.2台で推移している出生率だけ見ると、大きな成功は収めていないようにも見えます。反対に政府が無策だったら、1.2台さえ維持できなかったかもしれない。制度の中には導入してまだあまり年月がたっていないものもありますし、長引く不況は人々にストレスを与え、特に若い人たちの結婚や出産といった人生の選択に大きく影響しています。そう考えると09年も出生率は下がるでしょう。でも、結論を急ぐことはない。政府は09年の結婚奨励・少子化対策費を、前年度の8億シンガポールドル(約511億円)から倍増しました。10年単位で見ないと、変化はわかりません。


──シンガポールが研究した国、目指す国のモデルはありますか。

テオ デンマークに興味を持っています。全米科学財団が、世界各国で国民の幸福度を調べたところ、97カ国中、デンマークは1位でした。女性の雇用率も世界4位と上位なのに、出生率も1.85と高い。一方、シンガポールの幸福度は2.72で53位、女性の雇用率は19位です。どうしたら幸福度と雇用率が両立するのか、研究しています。
デンマークは母親だけに出産、育児休暇があるのではなく、父親にもある。男性も育児に熱心で、男性が育児で会社を休むことに寛容な社会のようです。こうした国の政策に、シンガポールが学べるヒントがあるのかもしれません。

朝日新聞ご購読のお申し込みはこちら

世界のどこかで、日本の明日を考える 朝日新聞グローブとは?

Editor’s Note 編集長 新創刊のあいさつ

このページの先頭へ