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2008年、台湾の合計特殊出生率は「1.05」。09年はさらなる低下が予想される。衝撃的な数字を前に、人口学者はそろって当局の対策が後手に回っていると焦りを口にする。そのひとり、台湾大の陳玉華教授に、急速に進む少子化の背景を聞いた。
(2009年12月7日、台北市の台湾大で。聞き手・市川美亜子)
――当局の少子化対策をどうみていますか。
陳玉華 とても、焦っています。少子化対策はすぐに効果が出るものではないので、早くから地道に取り組むことが必要なのに、当局は対策にきちんと取り組もうという意欲があるとは言い難いですね。

08年、私たちの長年の努力が実って、少子化対策の指針を打ち出す「人口政策白書」が発表されましたが、この政策の実現に向けて努力し、アピールするという姿勢は政府に見られません。台湾における少子化問題の深刻さは海外のメディアでも報道されていますが、台湾内では少子化対策の優先順位は低いようです。同じ人口問題でも、政府は高齢化社会への対策と、移民政策に力を入れていて、少子化対策は二の次なのです。市民にも、あまり危機感はありません。
――一般の人々の危機感があまりないのは、なぜでしょうか。
陳 台湾では、1946年には600万人あまりだった人口が、1999年に2200万人を超え大きく増加してきました。このため、当局は長く人口抑制策をとってきており、人々にも「小さな土地に多くの人口がひしめいている」という印象が根強いのです。
合計特殊出生率は90年代後半から急速に落ち込み、当局も人口政策を転換しました。しかし、人々の間では人口過剰感が抜けず、いまだに「まだまだ人口は十分に多い」「そんなに産まないでもいいじゃないか」という意識が強いですね。環境に負荷をかけないようにするという観点から、人口をあまり増やさない方がいいという意見もありますし、男女平等の観点から、女性に出産を促すような政策には「女性を出産の道具としてみている」という反対意見が根強くあります。
少子化の影響はすぐに出るものではなく、じわじわと20、30年かけて出てくるものなので、市民にも当局にも、なかなか深刻さが実感しづらいようです。
――台湾では、特にどのような政策が有効だとお考えでしょうか。
陳 ほかのアジアも同様ですが、台湾では特に晩婚化・非婚化の原因として、急速に進んだ女性の高学歴化が挙げられます。90年代には多くの大学が新設され、大学・大学院に進学する女性が一気に増えました。経済界、教育界とあらゆる分野に女性が進出し、大学では、研究者が半分を女性が占めています。女性の社会進出度を示す指数もアジア随一です。
一方で、男性には家庭の中で女性を抑圧するような傾向が根強くあります。こんな状況では、男性と結婚して家庭に入り、子どもを産むことが幸せだと考える人は少ないでしょう。即効性のある政策ではありませんが、なによりも大切なのは教育だと思います。男女平等の意識を育て男性を家事・育児に参加させること、人口水準に保つことの大切さの理解を広げること、そして、子どもは公共の財産だという意識をしっかり根付かせることです。「出産手当を配る」などの対策をとっても、こうした意識が変わらなければ、効果は一時的なものになるでしょう。
高学歴化に伴い、男女の就学・就職時期が遅くなっているという現実にも対処すべきです。在学中に配偶者を見つけた女性が出産できるように家族用の学生寮をつくったり、学生結婚して子どもをつくった人たちへの手厚い奨学金を整備したりといった環境づくりが有効だと思います。
――少子化は日本や韓国、シンガポールなどアジアでどこも深刻化しています。共通の背景、共通の対策はあるのでしょうか。
東アジアが欧米と大きく異なるところは、結婚が出産の「許可証」のような受け止められ方をしていることです。伝統的な価値観の存在や立法上の経緯から、結婚しないで婚外子を生み育てることに消極的な傾向は今後もあまり、変わらないでしょう。このため、少子化を解決するには、結婚する人の割合を高めることしか手がない点が、アジアの抱える共通性ですね。
やはり、アジアの場合には男女平等の意識を高めて、家事や育児分担を進めることが大切ではないかと思います。最近では、結婚紹介業者などを通して手っ取り早く東南アジアなどからの花嫁を迎えるケースが増えています。結婚する人が増えて、少子化を緩和するようにみえますが、安易にこうした方向に進むことは、女性を家事や出産の道具のように扱う傾向を強める懸念もあります。長期的には台湾社会が男女平等な家族関係の構築に向かうのを妨げ、台湾の女性の結婚意欲を下げてしまうでしょう。