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日本、非婚化の先に起こるのは

[Part4] 「東アジアの少子化は、パラサイト・シングル化と恋愛文化の薄さが背景にある」

山田昌弘 中央大学文学部教授


パラサイト・シングル、格差社会、婚活……。現代若者社会の本質を突く数々の言葉を生み出してきた山田昌弘・中央大教授。その著書は、台湾や韓国で翻訳・出版されている。早くから東アジアの少子化に注目してきた家族社会学者は、その要因として「若者のパラサイト・シングル化」と「恋愛文化のなさ」をあげる。
(2010年1月12日、東京・八王子市の中央大学で、聞き手=浜田陽太郎、原島由美子)

 

──東アジアで急速に進む少子化の共通した背景、原因をどう分析されますか。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年11月30日、東京生まれ。2008年4月より中央大学文学部教授。家族社会学、感情社会学、ジェンダー論が専門。「パラサイト・シングルの時代」(1999年)は、台湾,香港で2001年、韓国では04年に翻訳が出版。「『婚活』時代」(共著、08年)は今年中に中国語訳が出る予定。

山田昌弘教授 東アジアや南ヨーロッパは、親と子が一緒に住むのが当たり前の社会です。親は豊かだが、子どもの稼ぎは少ない状況では、子どもはなかなか家を出て、自立しない。このパラサイト・シングル(実家で親に寄生しながら生活する独身者)の存在が、大きな原因の一つと見ています。

英、米、仏、スウェーデンなどプロテスタント系の諸国は、子どもが高校を卒業すると原則、親元を離れます。大都市だと家賃が高いので、1人で暮らすより、誰かとルームシェア(アパートなどを複数で借りて住むこと)する方が経済的になる。「どうせルームシェアするなら、好きな人と暮らしたい」となり、同棲が増える。その先で自然に、結婚や出産へとつながっています。

――東アジアの特徴として「恋愛文化の不在」を指摘されていますね。
山田 特に、中国系の人は恋愛文化に染まっていない気がするのです。欧米でいう「ロマンティック・ラブ」イデオロギーを取り入れずに近代化したため、結婚相手を決める際には、恋愛感情よりも、収入が十分にあるか、親と同居できるか、出身地はどこかなどの条件を重視する。将来にわたって一緒に生活できる条件を整えるのが結婚だ、と思っているようなのです。中国からの留学生に聞くと、「愛では食えない」「愛よりカネですよ」と言う。そうした価値観のもとでは、希望条件を適合させるデータマッチングは、かえってやりやすいでしょう。逆に日本や韓国では、中途半端に恋愛幻想があり、かつ、生活条件を整える事が必要なのでマッチングのやりにくさがある。

──日本には恋愛文化ではなく、恋愛幻想があるということですか。
山田 先日、ある雑誌のアンケートで「日本の30代の独身女性で、異性とつきあった経験がない割合は25%」という結果が出て、編集者が驚いていました。「恋人がいる人」「かつていたけど今はいない人」「一度もつきあったことがない人」が、それぞれ3分の1程度の割合になっていると思っていいでしょう。

しかし、こんな話を欧米の人にすると、「恋なくして何のために生きているんだ?」「恋人がいなくて寂しくないの?」「休みの日何してるんだ」と理解できない。彼らは、高校時代から異性とつきあうことが当たり前で、「恋人がいないと恥ずかしい」と考えている。日本、韓国はそういう文化への「あこがれ」は強いですが、気軽に異性とデートする文化的土壌がない。本当に「好き同士が一緒にいるだけで幸せ」と考えるなら、もっと同棲したり結婚したりするカップルが多くなるはずです。

欧米のように「お金はさほどなくとも、カップルとして楽しく暮らせ自立できていれば幸せ」と日本人が思えるようにしたい。そんな願いを込めて、私と白河桃子さん(少子化ジャーナリスト)とで、「『婚活』時代」(ディスカバー携書)を出したのです。

──日本における男女のマッチングの難しさとして、独身男性の経済力、収入に対する認識のズレが女性側にあると指摘されています。65%の女性が、年収400万円を最低ラインと考えるが、実際にそれだけ稼いでいる独身男性は2割強。そういう現状が、あまりに知られていないのでしょうか?
山田 いや、それは知っていますよ。 

──知っていながら、「私だけは、数少ない高収入男性と結婚できる」と思いこんでいるのですか?
山田 そうです。宝くじを買う人は、宝くじが当たると思って買っている。何万分の1の可能性しかなくても、買う人は買う。

アルバイトしながら、声優学校に通っている人を取材した時、将来の展望を聞いたら、「3年前にこの学校の卒業生で、声優になれた人がいた」という。確率で言うと、何千分の1。でも「この学校を出た人がなれたのなら、私にも可能性がある」という考え方なのです。夢がかなわなかった場合のことを考えていない。こうした傾向を、私は「ギャンブル化」と呼んでいます。実現しなかったときのリスクをまったく考えず、夢を見ている。

──一方で、独身女性の間で専業主婦志向が高まるなど「若者が保守化している」と指摘されています。
山田 ここでいう「保守化」は、右傾化とは違い、「リスクを冒さない、冒険しない」という意味です。今、多くの若者は「普通に仕事して、家族をつくって、子どもをもうけたい」という希望を持っています。安定した生活を求めること自体は、いつの世代もあまり変わっていない。

ただ、2008年のリーマンショック後、状況は大きく変化しました。MBA(経営学修士)を取得した女性が、今や簡単にリストラされてしまう。未婚の若い女性は、今は正社員だったとしても、「このままだと朽ち果ててしまいそう」「リストラされるかも」などと思い始め、仕事に活路を見いだせなくなってきた。

経済的な危機意識から、こうした女性までも、専業主婦志向とまではいかなくても、「安定した収入の男性をつかまえて結婚したい」と考えるようになっている。ただ、そうした条件にあった男性の数はごく少ない。

──少子化対策に関して、これまでの考え方を抜本的に改めるべきなのでしょうか。
山田  これまでは、「女性が仕事を続けたいから結婚しない」という説に立って、「保育園をつくれば結婚して子どもを産むようになる」という考え方が、少子化対策の基本にあった。それはそれで、進めるべき施策だと思います。だが、少子化対策として大きな効果はない。

少子化対策とは結婚対策でしかありえないのです。私は、「結婚相手の男がいなければ、子どもは産めないじゃないか」と正直に書いてきた。まず、若者の収入の見通しが立たないことが、結婚を妨げている原因になっていることを正直に認めるべきだと。それなのに、これまで政府や自治体、そしてマスコミも、「収入が低い男性は結婚できない」という現実から「差別を助長する」として目を背けてきた。

まず、男女とも若者の経済力をつけることです。女性については、結婚しても続けたい職を用意する。男性も家事と育児を分担しながら生活していくことが合理的になっていく。そうしなければ、「男尊女卑にして、一夫多妻制を復活させろ」みたいな極論が出てきてしまうのではないかと恐れています。

 

取材にあたった記者

市川美亜子(いちかわ・みあこ)
1974年生まれ。
西部報道センターなどを経て、東京社会グループ記者
───
原島由美子(はらしま・ゆみこ)
1968年生まれ。
東京スポーツ部、フリーランスなどを経て、GLOBE記者
───
太田啓之(おおた・ひろゆき)
1964年生まれ。
西部社会部、週刊朝日などを経て、生活グループ記者

イラストレーション

長崎訓子(ながさき・くにこ)
1970年生まれ。
多摩美術大学染織デザイン科卒。書籍の装画や絵本の挿絵など幅広く活動

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